人事処分と人事異動は別物か

2022/04/18|1,251文字

 

降格の理由があやふやだとトラブルになります

 

<人事処分だけの会社>

社員が不都合な行為を行った場合に、就業規則の懲戒規定に基づき人事処分だけを行っている会社もあります。

人事処分を行う目的は、主に次の3つです。

 

・対象となった社員に反省を求め、その将来の言動を是正しようとすること。

・会社に損害を加えるなど不都合な行為があった場合に、会社がこれを放置せず処分や再教育を行う態度を示すことによって、他の社員が納得して働けるようにすること。

・社員一般に対して基準を示し、みんなが安心して就業できる職場環境を維持すること

 

これらの目的が果たされれば十分と考えるわけです。

 

<人事異動だけの会社>

社員が不都合な行為を行った場合に、会社の裁量で人事異動だけを行っている会社もあります。

この場合の人事異動の目的は、適材適所によって会社全体の生産性を高めることにあります。

不都合な行為を行った社員を、責任が軽く重要度の低い仕事の担当に異動させ、その人の代わりに適任と思われる別の社員を任命します。

こうして、社内で業務が効率よく円滑に回るように調整するわけです。

 

<二重処罰の禁止>

憲法には、二重処罰の禁止について次の規定があります。

 

【日本国憲法第39条後段】

又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない。

 

人事処分も人事異動も、国家だけに権限のある刑罰とは違います。

しかし、その趣旨は、企業で行われる人事処分にも適用されるものと解され、二重処罰に当たる人事処分は、懲戒権の濫用とされ無効になることがあります。〔労働契約法第15条〕

 

<人事処分の種類>

モデル就業規則の最新版(平成30(2018)年1月版)には、懲戒の種類として、けん責、減給、出勤停止、懲戒解雇があります。

しかし、第63条(懲戒の種類)の解説には、「懲戒処分の種類については、本条に掲げる処分の種類に限定されるものではありません。公序良俗に反しない範囲内で事業場ごと決めることも可能です」と書かれています。

実際に、職務級を下げる降格、役職を免ずる降職といった処分も行われています。これらは、日常用語では左遷と呼ばれ、人事異動の一種でもあります。

 

<人事異動と人事処分の併用>

左遷(降格・降職)は、人事異動でありながら、人事処分の性質も併せ持つことがあります。

このことからも明らかなように、人事異動と人事処分の両方を行うことは、1つの行為を2回処罰することにはならず、二重処罰の禁止の趣旨に反しません。

行為と処分とのバランスが取れていなければ、その有効性が争われることはありますが、人事異動と人事処分の両方を行うのが不当だというわけではありません。

 

<人事考課>

人事考課は、社員の能力や実績を評価し、待遇などに反映させる目的で行われます。

そして、人事異動と人事処分の理由となった行為が、評価の対象となることもあります。

つまり、人事異動、人事処分、人事考課での低評価の3つが重ねて行われることもあるわけです。

ただし、対象となった行為とこれらとのバランスが保たれるよう配慮する必要はあります。

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