会社に貢献している社員の懲戒処分

2022/02/08|1,642文字

 

簡単ではない懲戒処分

 

<同じ遅刻であっても>

AさんとBさんが、どちらも今まで遅刻したことなど無かったのに、そろって同じ月に2回、30分の遅刻をしたとします。

そして、どちらも始業時刻の1時間前に会社に電話で「寝坊しました。遅刻します。申し訳ございません」という報告をしていたとしましょう。

 

【Aさん】

入社以来ずっと評価が高く、その人柄も周囲から信頼されている。仕事覚えが早く何でもテキパキと正確にこなすので、どうしても仕事が集まり残業が増えてしまった。会社としては、昇給や賞与の査定で報いている。今回の遅刻では、「可哀想に。きっと仕事で疲れているんだ」と言われている。

 

【Bさん】

入社以来ずっと評価が低く、その人柄も周囲から疑われている。仕事覚えが悪く間違いが多いため、仕事のやり直しなどのために、残業が増えてしまった。会社は、Bさんの仕事を減らし、なるべく定時で帰ってもらうようにした。今回の遅刻では、「たるんでいる。きっと深夜まで遊んでいるんだ」と言われている。

 

この場合でも、就業規則に「正当な理由なく、ひと月のうちに2回、10分以上の遅刻をした場合には、けん責処分とする」と規定してあったなら、この通りにしなければなりません。

会社はAさんとBさんの両方に対して、同じ懲戒処分をしなければならないのです。

これはこれで平等であり正しいという考え方もあるのでしょうか。

しかし、何か釈然としません。

 

<就業規則の規定>

最新版(令和3(2021)年4月版)のモデル就業規則には、次の規定があります。

 

(懲戒の事由)第66条  労働者が次のいずれかに該当するときは、情状に応じ、けん責、減給又は出勤停止とする。

① 正当な理由なく無断欠勤が 日以上に及ぶとき。

② 正当な理由なくしばしば欠勤、遅刻、早退をしたとき。

(以下略)

 

この規定では、「情状に応じ、けん責、減給又は出勤停止とする」となっていますから、同じ行為に対しても、情状に応じて異なる処分をすることができます。

 

<情状とは>

刑事手続では、訴追を行うかどうかの判断や刑の量定に影響を及ぼすべき一切の事情を情状と呼んでいます。

犯罪の動機や目的、犯人の年齢・経歴や犯行後の態度などがこれにあたります。〔刑事訴訟法第248条、刑法第66条〕

懲戒処分は会社の行う制裁であって、国が行うものではありませんが、行為者の年齢、社歴、事後の態度などは情状にあたります。

そして、この情状は懲戒処分を軽くする場合だけでなく、重くする場合にも作用します。

 

<公平の考え方>

同じ過ちをしたのに、異なる懲戒処分では不平等だという反論もありそうです。

しかし平等とは、人々の共通する属性に着目して同じ扱いをすることにより、妥当な結論を導く考え方です。

一方で公平とは、人々の異なった属性に着目して違った扱いをすることにより、妥当な結論を導く考え方です。

さて、妥当な結論を導くには、どちらの考えに従うべきなのでしょうか。

 

【懲戒処分の目的】

・懲戒対象となった社員に反省を求め、その将来の言動を是正しようとする。

・会社に損害を加えるなど不都合な行為があった場合に、会社がこれを放置せず懲戒処分や再教育を行う態度を示すことによって、他の社員が納得して働けるようにする。

・社員一般に対して、やっていいこと悪いことの基準を示し、みんなが安心して就業できる職場環境を維持する。

 

懲戒処分の目的は、上記のようにまとめられると考えられますから、公平な処分というのが基本になるでしょう。

ただし、平等が無視されるわけではありません。AさんもBさんも普段の仕事ぶりや周囲からの信頼が同じであるなら、同じ懲戒処分となるのが妥当だということになります。

 

こうして、Aさんには上司からの厳重注意、Bさんにはけん責処分という差を設けることもできます。

ただし、これが可能なのは、就業規則の規定が「情状に応じた」扱いを許す内容になっている場合に限られます。

この視点から、もう一度、御社の就業規則を確認するようお勧めします。

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