定年後の再雇用と所定労働日数・所定労働時間(スマホ版)

2021/11/30|1,751文字

 

<再雇用後の賃金>

会社と労働者とで定年後も働き続けることの合意がなされる場合に、労働条件については、どうしても賃金ばかりが重視されがちです。

再雇用の実績が多い会社では、定年前の賃金のおよそ何パーセントという相場の形成があるでしょうから、賃金についての合意の形成は比較的容易かもしれません。

年金については、性別と生年月日によって支給開始の時期が異なりますし、60代前半と65歳以降とでは支給額が大きく異なります。

また、配偶者の生年月日によって、加給年金額や振替加算についても違いが出てきます。

これらを踏まえて、期間ごとの賃金変動まで合意しておくこともあります。

 

<年次有給休暇>

定年前は、毎年20日の年次有給休暇が付与される一方で、2年前に付与された年次有給休暇は時効消滅するという実態があると思われます。

しかしこれは、週5日勤務を前提としているわけです。

定年後の再雇用で、所定労働日数や所定労働時間が変われば、年次有給休暇の付与日数は変わるかもしれません。

変わるのであれば、これについても再雇用対象者に確認しておく必要があります。

 

労働基準法で、年次有給休暇の付与日数は次の【図表】のとおりです。週所定労働日数が4日で、週所定労働時間が30時間以上の場合には、週所定労働日数が5日の欄が適用されます。

 

【図表】

週所定

労働日数

勤 続 期 間

6月 1年6月 2年6月 3年6月 4年6月 5年6月 6年6月以上

5日

10日

11日

12日

14日

16日

18日

20日

4日

7日

8日

9日

10日

12日

13日

15日

3日

5日

6日

6日

8日

9日

10日

11日

2日

3日

4日

4日

5日

6日

6日

7日

1日

1日

2日

2日

2日

3日

3日

3日

 

これは法定の日数ですから、就業規則にこれと異なる規定があれば、労働者に有利である限りそれに従います。

「勤続期間」は定年前と定年後を通算します。定年後の再雇用だからといって、定年前の年次有給休暇が自動的に消滅するわけではありません。

 

さて、平成31(2019)年4月1日からは、労働者からの申し出が無くても、使用者が積極的に年次有給休暇を取得させる義務を負うことになりました。

これは労働基準法の改正によるものです。

年次有給休暇の付与日数が10日以上の労働者に対し、基準日から1年以内の期間に、年次有給休暇のうち5日については、その取得を確実にしなければなりません。

「年次有給休暇の付与日数が10日以上の労働者」という限定がありますので、この部分についても再雇用対象者にあらかじめ説明が必要でしょう。

 

<社会保険>

社会保険(健康保険・厚生年金保険)への加入は、1週間の所定労働時間と1か月の所定労働日数が常時雇用者(正社員など)の4分の3以上というのが原則の基準です。

ただし、大企業などで特定適用事業所となっている場合には、1週間の所定労働時間が20時間以上で加入となります。

 

この基準により社会保険に加入しない場合には、扶養家族(被扶養者)を含めて国民健康保険の保険料を支払うことになりますし、扶養している配偶者は国民年金保険料を支払うことになります。

定年前の健康保険であれば、扶養家族の分の保険料は発生しなかったのに、国民健康保険に切り替わると、扶養家族扱いにはならず保険料が高くなることも多いでしょう。

また国民年金に切り替わると、扶養している配偶者についても「第三号被保険者」ではなくなりますので国民年金保険料がかかることになります。

 

社会保険料は高額ですから、社会保険の加入基準との関係で、1週間の所定労働時間と1か月の所定労働日数を決める必要があります。

 

<雇用保険>

雇用保険の加入基準は、会社の規模にかかわらず1週間の所定労働時間が20時間以上となっています。

20時間を下回ると、安定した雇用関係に無いということで、雇用保険では「離職」という扱いになります。

なお、満64歳以上の労働者の雇用保険料についての免除制度は令和2(2020)年4月1日をもって廃止されました。

 

人手不足を背景として、定年後の再雇用が盛んになっています。これに伴うトラブルも増加しています。会社に長年貢献してきた従業員とのトラブルは、会社にとって大きな打撃となってしまいます。十分な話し合いをもって労働条件を決定するようお願いいたします。
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