2021/11/14|1,066文字
会社が健康診断を受けさせないリスク
<採用時の健康診断>
企業は、常時使用する労働者を採用するときには、労働安全衛生法に定める基準により、健康診断を実施しなければなりません。
たとえ就業規則に規定が無くても、あるいは就業規則が無くても、この実施義務は免れることができません。
労働安全衛生法に定める対象者の基準は次の2つです。両方の基準を満たす人については、健康診断の実施義務があります。
・期間を定めないで採用されたか、期間を定めて採用されたときでも1年(深夜業を含む業務、一定の有害業務に従事する人は6か月)以上引き続き使用(または使用を予定)されていること。
・1週間の所定労働時間が、その企業で同種の業務に従事する正社員の4分の3以上であること。
健康診断を行わなかった事業者に対する罰則は、1人1回罰金50万円ですが、健康診断をサボる労働者に対する罰則はありません。
そして、健康診断の実施義務は、事業規模に関係なく定められていますから、小さな会社が免除されることはないのです。
<法定されていることの恐ろしさ>
企業が健康診断の実施をサボったとしても、必ずしも罰則が適用されるわけではありません。
しかし、健康配慮義務違反ということになってしまいます。
他人にケガをさせた場合には、傷害罪や過失致死罪など刑法が適用されることがあります。
これとは別に、加害者は被害者から治療費や慰謝料などの損害賠償を請求されてしまいます。
企業が健康診断をせずにいたところ、労働者の一人が勤務中に病死したとします。
この場合に罰金を取られなかったとしても、遺族からは多額の損害賠償を請求されるでしょう。
企業としてやるべきことをやっていなかったのですから、責任は免れません。
しかも、健康診断の実施義務を果たしていなかったことは、簡単に証明されてしまいます。
<健康診断は企業にとっても安心材料>
労働者から「仕事が忙しくて血圧が上がった」「仕事のストレスで肝機能がおかしくなった」などの主張があっても、採用時の健康診断を正しく行っておけば、入社の時点から多少の異常は見られたことが容易に判明します。
仕事が原因で健康を害したわけではないという証明もしやすくなります。
採用を決めてから、健康診断の結果が悪いことを理由に採用を取り消すのは、安易にできないことです。
むしろ、健康に配慮しながら働かせることになります。
この場合にも、健康診断の結果を踏まえて適正な対応をとったという主張をするには、結果を保管しておくことが役に立ちます。
なお、健康診断の個人別結果は、法定の保管期間が5年間と長いので注意しましょう。