クイズ正解で有給休暇を与えるのはなぜダメなのか

2021/11/12|1,361文字

 

<クイズに正解で有給チャンス>

昔、ある支店長が部下に、「クイズに正解しなければ有給休暇を取得させない」というメールを送ったという事件がありました。

この支店長は平成28(2016)年に複数の部下に対して「正解で有給チャンス」など、メールでクイズを出題していたそうです。

不正解の部下には、実際に年次有給休暇の取得を認めなかったとのことです。

  

<しろうと目線では>

なかなか年次有給休暇を取得できない職場で、「少しでも有給休暇を消化させよう」と考え、上司が部下全員にくじ引きやクイズで働きかけて、取得を促進するのは、働き方改革の観点からも良い工夫であるかのようにも見えます。

たとえ経営者や人事部門から「もっと有給休暇を取りなさい」と言われても、全社的にあるいは一部の部門で、なかなか取得できない雰囲気があるかも知れません。

こんなとき「当たりくじを引いたから」「クイズに正解したから」という理由で、堂々と年次有給休暇を取得できたなら、その社員は救われた気持になることでしょう。

 

<法的観点からは>

しかし年次有給休暇は、労働基準法第39条に定められた労働者の権利です。

権利というのは、行使するかしないかが権利者の自由に任されています。

もし「当たりくじを引いたら」「クイズに正解したら」賞品として必ず年次有給休暇を取得するというルールなら、強制的に権利を行使させられることになり、権利者の自由ではなくなってしまいます。

また「外れくじを引いたら」「クイズに不正解なら」年次有給休暇を取得できないというルールなら、会社の許可なく自由に取得できるはずの年次有給休暇が不当に制限されてしまいます。

年次有給休暇の取得促進という目的が正しくても、手段が正しくなければ、法的観点からは違法なこととして否定されることがあるのです。

 

<労働基準法が改正されて>

平成31(2019)41日からは、法改正により、労働者からの申し出が無くても、使用者が積極的に年次有給休暇を取得させる義務を負うことになりました。

権利を行使するかしないかが権利者の自由に任されていることの重大な例外です。

政府は、働き方改革の推進を権利の本来の性質に優先したことになります。

年次有給休暇の付与日数が10日以上の労働者に対し、年次有給休暇のうち5日については、基準日から1年以内の期間に労働者ごとにその取得日を指定しなければなりません。

具体的には、基準日から次の基準日の前日までの1年間で、年次有給休暇の取得について、次の3つの合計が5日以上となる必要があります。

 

・労働者からの取得日の指定があって取得した年次有給休暇の日数

・労使協定により計画的付与が行われた年次有給休暇の日数

・使用者が取得日を指定して取得させた年次有給休暇の日数

 

こうしたことは、多くの企業にとって不慣れですから、ともすると次の基準日の直前にまとめて年次有給休暇を取得させることになりかねません。

これでは業務に支障が出てしまいますので、計画的に対処することが必要になります。

そこで、労働基準法施行規則も改正され、企業は「年次有給休暇管理簿」の作成・運用・保管が義務づけられています。〔労働基準法施行規則第24条の7〕

働き方改革の継続的な推進による法改正に取り残されることがないよう、十分に注意しましょう。

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