社内で「罰金」と言うのは品が無い

2022/05/20|1,391文字

 

<罰金は国家が独占

最近はだいぶ減りましたが、今でも駐車場の入口付近に「無断駐車は罰金2万円」などの表示を見かけることがあります。

また「遅刻は罰金1万円」というルールがある会社の方から、お話をうかがったこともあります。

しかし、罰金は死刑や懲役と同じく刑罰の一種です。

刑罰権は国家に独占されていますから、国家権力ではない個人や会社が罰金を取るということは、相手が誰であれ金額にかかわらず法的に許されません。

ですから、駐車場の「罰金」も、社内の「罰金」のルールも無効です。

本当に徴収したら、詐欺罪、恐喝罪が成立したり、労働基準法違反となるでしょう。

場合によっては、「罰金」では済まされず懲役刑が科されるかも知れません。

もし社内ルールで「罰金」ということばを使っていたら、みっともないのですぐにやめましょう。

 

<労働法の定め>

就業規則ではなく内規だとしても、「罰金」は違約金の定めや損害賠償の予定の禁止に反して無効になります。〔労働基準法第16条〕

また、給与から差し引くことは、賃金の全額払いの原則に反することになります。〔労働基準法第24条第1項本文〕

結局、労働法上も実際に徴収することは認められません。

またたとえ、使用者が労働者の過失によってこうむった損害を回収したい場合であっても、実際に被った損害額のすべてについて、労働者に請求できるわけではありません。

なぜなら、その損害の発生について、使用者に全く責任がないというのは稀ですし、労働者を使用することによって利益を得ている分、その損失についてもある程度は負担するのが公平だからです。

完璧な人はいないのですから、労働者の過失によって損害が発生することも覚悟のうえで雇っているというのが、法律の考え方なのです。

 

<使用者から労働者に請求できる損害賠償額>

まず、労働者に損害賠償義務があるかどうかは、労働者が通常求められる注意義務を尽くしたかどうかによります。

そして、労働者に重大な過失や故意がある場合には、損害賠償義務を負うことになります。

労働者の負担割合がどの程度となるかは、具体的な事情によります。

裁判になれば「事業の性格、規模、施設の状況、労働者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防もしくは損失の分散についての使用者の配慮の程度、その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、使用者は、労働者に対して賠償の請求ができる」という判断になります。

たとえば長時間労働が続いて疲れている労働者が、注意散漫になって事故を起こしたような場合には、長時間労働をさせた使用者に大きな落ち度があり、使用者側の負担割合が相当程度大きくなります。

 

<罰金を免れる方法>

ところで、「遅刻は罰金1万円」というルールがある会社の方は、次のような話をしていました。

「遅刻しそうになったら喫茶店などで時間をつぶし、落ち着いてから会社の上司に電話をかける。朝から具合が悪く、出勤の途中で我慢できなくなったので病院に行きますと言って、年次有給休暇を使えばいい。たとえ休暇はダメだと言われて欠勤控除になっても、罰金1万円よりはマシです」

使用者側が違法なことをしていると、労働者側もこれに対抗しておかしなことをするようです。

これでは、会社と社員が共に成長するというのも「夢のまた夢」でしょう。

 

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