懲戒規定のちょうどよい具体性

2022/05/18|876文字

 

<懲戒権濫用法理>

就業規則や労働条件通知書、雇用契約書などに懲戒処分の具体的な取り決めがあって、その労働者の行為が明らかに懲戒対象となる場合であっても「懲戒権濫用法理」の有効要件を満たしていなければ、裁判ではその懲戒処分が無効とされます。

 

<懲戒規定の具体性>

つまり、懲戒処分について具体的な取り決めがあることと、ある労働者が何か不都合な行為をしたときに、それがその取り決めに明らかにあてはまるということが、懲戒処分の有効要件となります。

 

<具体性に欠ける場合>

たとえば「正当な理由なく無断欠勤が続いた場合」という規定では、何日続いたら懲戒の対象になるのか不明確ですから、具体的な日数などの基準を示しておかなければなりません。

このような規定の仕方の場合、欠勤によっていくらの損害を会社に与えたかではなく、欠勤そのものによる企業秩序の侵害を問題にしていると解釈されるからです。

また、「故意に会社の施設や物品を損壊したときは懲戒処分を行う」という規定では、壊した物の価値に応じて懲戒の種類を決めるという意図があるにせよ、譴責(けんせき)なのか出勤停止なのか、具体的な懲戒の種類を示しておかなければ、具体的な取り決めとはいえません。

 

<余計な形容詞が付いている場合>

むしろ、具体的な規定ということに捉われて、余計な形容詞を付けてしまい、使用者と労働者との間で解釈の争いが発生してしまうケースの方が多いのです。

たとえば「重要な経歴を詐称して雇用されたとき」という規定では、使用者が「重要な経歴詐称」であることを証明しなければ、懲戒処分ができなくなってしまいます。

この場合「経歴を詐称して雇用されたとき」とだけ規定しておいて、使用者は「経歴の詐称」があったことだけを証明し、労働者の方から「懲戒処分に値するほどの重要な経歴詐称ではない」という証明をしなければ、懲戒処分を免れないようにしておいた方が現実的です。

特に懲戒規定については、余計な形容詞を付けないこと、争いになったときに証明責任を負うのは労使のどちらになるかということを意識して定める必要があるのです。

 

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