就業規則の「定めなきことは」という規定

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<契約書には似た規定が>

契約書の最後の方に「本契約書に定めのない事項、または本契約の履行にあたり疑義を生じた事項は、甲乙協議の上円満に解決をはかるものとする」という規定を見ることが多いですね。

しかし、契約書というのは、当事者間に紛争が発生した時にこそ、その解決の拠り所とするために作成されるものです。

なんでも話し合って円満に事が進むのならば、その当事者間に契約書は要りません。

それなのに、何か疑問に思うことがあれば話し合って解決しましょうという条文は矛盾しています。

 

<就業規則では>

就業規則の最初の方に「この規則に定めのない事項については、労働基準法その他の法令の定めるところによる」という規定を見ることも多いです。

なるほど、こうすれば法改正があっても、就業規則を変更する必要が無くて便利なようにも見えます。

しかし、こうしておけば不都合が無いといえるのでしょうか?

 

<たとえば労働基準法で>

労働基準法第7条の公民権行使の保障について、たとえば投票に行っている時間の賃金が支払われるか否かは、通達により労使の取り決めによるとされています。

ということは、賃金の支払いについて決めておかないとトラブルになるでしょう。

これは労働基準法第68条の生理休暇も同様です。休んだ日の賃金が支払われるのか支払われないのかは大問題です。

労働基準法第41条は、「監督もしくは管理の地位にある者」については、労働基準法の労働時間、休憩、休日に関する規定を適用しないとしています。さて、適用されない人の休憩や休日はどうなるのでしょうか。ご本人が自由に決めるのでしょうか。取締役に近い従業員についての話ですから事は重大です。

 

<他の労働法でも>

高年齢者雇用安定法が改正されたとき、会社は定年を引き上げるか、定年をなくすか、あるいは継続雇用制度を導入するかの選択を迫られました。

これと同様に、育児・介護休業法には、会社の義務として、どちらか/どれか選んで措置を実施するという規定がいくつかあります。

こうした場合には「法令の定めるところによる」と言ってみても、何も決まっていないことになります。

会社がどうすべきかについて、選択肢を与えられる条文というのは、最近になってから出現しています。

昔は「法令の定めるところによる」としておけば問題なかったのですが、最近の法令では「会社が従業員と話し合って選んでください」という内容が出てきましたので、対応しきれなくなっているというわけです。

 

<そもそも法令に規定が無い場合>

懲戒処分ができる場合とは、どのような場合なのか、法令には規定がありません。反対に、懲戒処分の限度や無効となる場合については、労働基準法や労働契約法に規定があります。ということは、就業規則に具体的な規定を置かなければ、懲戒処分が適正にできないことになります。

特に男女雇用機会均等法は、セクハラの禁止とセクハラ行為者に対する懲戒処分などの規定を企業に義務づけていますが、その具体的な内容は各企業の実情に応じて定めることになっています。セクハラの定義は法令にありませんから、「法令の定めるところによる」という規定ではセクハラが野放しになってしまいます。各企業ごとにきちんと定義を規定しなければなりません。

またたとえば、「正社員」ということばに、法令上の定義はありません。社内に正社員と正社員以外の従業員がいて、異なる処遇をしているのなら、それぞれの定義づけが必要です。もし「無期労働契約の従業員が正社員である」としていたら、労働契約法18条による有期労働契約の無期化により、正社員が増産されることになります。

 

<不都合を避けるためには>

何もせず放置したことによって「何もしていないのに」退職者から訴えられたり、労働基準監督署から是正を求められたりというのは、珍しいことではありません。

それぞれの会社にとって、必要不可欠な内容が、その会社の就業規則にきちんと規定されているか、法改正によって変えるべきところは変わっているか、労働法に詳しい弁護士や社会保険労務士のチェックが必要でしょう。

そして、会社の状況の変化や法改正のことも考えると、定期的なチェックが必要ということになります。

 

2018.12.03.解決社労士