2021/12/03|1,962文字
マイナスの給料って?
<給与から控除(天引)できるもの>
給与から控除できるものとしては、次のものが挙げられます。
・法令に別段の定めがある場合(所得税法による所得税等の源泉徴収、健康保険法、厚生年金保険法、労働保険徴収法による保険料の控除)
・労使協定(労働組合または労働者の過半数を代表する者と使用者との協定)によるもの ・欠勤控除(休んだ分を差し引く) ・減給処分(これは厳密には控除ではなく給与そのものの減少) |
このうち欠勤控除だけで、給与の総支給額がマイナスになってしまう場合には、給与計算の方法が不合理だと考えられるので改める必要があるでしょう。
<欠勤控除>
遅刻・早退・欠勤によって労働時間が減少した分だけ、給与を減らすことをいいます。
時間給であれば、労働時間分の賃金を計算しますから欠勤控除は問題となりません。
主に月給制の場合に問題となります。
また、「完全月給制」のように欠勤控除をしない場合には問題となりません。
欠勤控除について、労働基準法その他の法令に規定はありません。
しかし一般に、労働者の労務の提供がない場合には、使用者は賃金を支払う義務がなく、労働者も賃金を請求できないという「ノーワーク・ノーペイの原則」が認められています。
この原則は、労務の提供と賃金の支払いが対応するという労働契約の性質上、当然に認められているものです。〔労働契約法第6条〕
ですから、欠勤控除をすることは違法ではないのですが、計算方法について就業規則等に明記しておく必要はあります(絶対的必要記載事項)。
<欠勤控除の単価>
欠勤控除を算出する場合、まず単価である「時間給」を計算します。
月給を、1か月の所定労働時間で割った金額が「時間給」となります。
1日当たりの所定労働時間に、1か月平均の所定労働日数をかけるなどして、1か月の所定労働時間を計算します。
1か月の所定労働時間が計算できないのは、労働条件通知書の内容が決まっていないという状態です。
トラブル防止のためにも労使で合意して決めておきましょう。
<減額方式の場合>
月給から欠勤時間分の賃金を控除する計算方法です。
これは欠勤控除の考え方を、そのまま計算方法に反映させているので、多くの会社で用いられています。
しかし、31日ある月など、その月の所定労働日数が1か月平均の所定労働日数を超える場合、1か月すべて欠勤すると給与がマイナスになるという不都合が生じることがあります。
このとき、対象者からマイナス分の給与を支払ってもらったり、翌月の給与から控除したりしている会社もあるようですが、明らかに不合理でしょう。
ですから、減額方式でマイナスになった場合にはゼロとして扱い、会社からの支払も労働者からの徴収もないこととするなど、規定に例外を設けるなどの工夫が必要です。
<加算方式の場合>
出勤した分の賃金を時間給で計算する方法です。
これなら給与がマイナスになることはありません。
しかし、28日しかない月など、その月の所定労働日数が1か月平均の所定労働日数を下回る場合、支給額が大幅に減ってしまいます。
減額方式よりも、明らかに不利になります。
<合理的な併用方式>
たとえば、減額方式と加算方式の両方で計算して、多い金額の方で給与を支給するなど、2つの方式を併用することによって、欠点を解消することができます。
<月間所定労働時間の変動>
なお、1か月の所定労働時間が、毎月の出勤日数や暦上の日数によって変動する会社もあるようです。
この場合には、欠勤控除の不合理が発生しにくくなります。
しかし、月給の時間単価が変動するというのでは、給与計算が複雑になりますし、同じ時間の残業手当が月によって変動するのなら、単価の安い月には仕事を溜めておいて、単価の高い月に集中して残業するという困った現象も起こりかねません。
年次有給休暇の取得も有利な月に集中しそうです。
毎月変動するのでは名ばかり「所定労働時間」になってしまいます。
月々の出社予定に基づく「予定労働時間」と、給与計算に用いる「所定労働時間」とを混同しているようにも見えます。
やはり、1か月の所定労働時間は一定にすべきでしょう。
<他の控除と欠勤控除が重なってマイナスの場合>
社会保険料など法定の項目を給与から控除することは法律上問題ありません。
しかし、欠勤控除をしたら給与が少額となり、ここから社会保険料を控除するとマイナスになってしまう場合、これでよいのか迷ってしまいます。
それでも、欠勤控除だけでマイナスになる場合とは違い、マイナス分を別途労働者に請求することは問題ありません。
こうした例外的な場合についてまで、就業規則に規定しておくことは稀でしょうから、マイナス分をどのように支払ってもらうかなど細かいことは、会社と労働者とで話し合って決めればよいでしょう。