2022/06/13|1,805文字
<パート・有期法への改正>
令和2(2020)年4月1日、パート法は、パート・有期法に改正されました。
中小企業でも令和3(2021)年4月1日に施行済です。
【正式名称】
パート法 = 短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律パート・有期法 = 短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律 |
旧法では、フルタイム以外の労働者だけが対象です。
新法では、有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者が対象となります。
区分 |
無期 |
有期 |
派遣 |
フルタイム |
通常の労働者 |
新法対象者 |
新法対象者 |
フルタイム以外 |
新法対象者 |
新法対象者 |
新法対象者 |
ここで通常の労働者とは、定年以外に雇用期間が限定されない無期雇用で、フルタイム勤務の労働者ですから、「正社員」と呼ばれるのが一般です。
<事業主の説明義務>
新法には、事業主の説明義務が規定されています。
【パート・有期法第14条第2項】
事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者から求めがあったときは、当該短時間・有期雇用労働者と通常の労働者との間の待遇の相違の内容及び理由並びに第六条から前条までの規定により措置を講ずべきこととされている事項に関する決定をするに当たって考慮した事項について、当該短時間・有期雇用労働者に説明しなければならない。 |
説明は、事業主が新法対象者を雇い入れた後、本人から求められたときに行うことになります。
説明内容は、主に待遇の相違の内容とその理由です。
事実に反する嘘の説明はできませんし、不合理な説明もダメです。
理解しうる説明であることが必要ですが、必ずしも納得してもらうことまでは必要ありません。
<退職金支払の理由>
もし、正社員など一般の労働者のみに退職金を支給しているのであれば、退職金支払の有無と理由について説明が必要になります。
説明を求めたことに対して、不利益な取扱をすることは禁止されています。〔パート・有期法第14条第3項〕
ですから、不快な思いをさせないように配慮する必要があります。
さて、退職金支払の一般的な理由としては、次のようなものが挙げられます。
【退職金支払の一般的な理由】
長期雇用を前提とした無期契約労働者に対する福利厚生を手厚くし、人材の確保・定着を図るため。 |
正社員など通常の労働者以外は、すべて2~3年で退職しているという実態があれば、こうした理由で退職金を支給するのは合理性があります。
しかし、多くの企業では、有期雇用労働者が契約の更新を繰り返して、相当長期にわたり働いているのではないでしょうか。
<正社員だけに退職金が支給される合理的な理由>
次のような制度であれば、正社員など通常の労働者だけに退職金が支給されるのは、合理的な理由があるということになります。
正社員など無期・フルタイムの労働者には、賃金の後払い、長年の功労に対する報償として退職金を支給する。一方、新法対象者であるパート・有期労働者に対しては、退職金が無いことを前提として、退職金引当金に相当する額を賃金に上乗せして支給している。
そのため、職務の内容、職務の内容や配置の変更の範囲、その他の事情が同等であれば、無期・フルタイムの労働者よりも、新法対象者の方が賃金の時間単価が高い。 |
<企業の取るべき対応>
現在のところは裁判でも、「一般論として、長期雇用を前提とした無期契約労働者に対する福利厚生を手厚くし、有為な人材の確保・定着を図るなどの目的をもって無期契約労働者に対しては退職金制度を設ける一方、本来的に短期雇用を前提とした有期契約労働者に対しては退職金制度を設けないという制度設計をすること自体が、人事政策上一概に不合理であるということはできない」とされています。
また、同一労働同一賃金ガイドラインには、退職金についての具体的な記述がありません。
ですから、賃金の時間単価の違いや、勤続年数の実態を踏まえ、正社員など無期・フルタイムの労働者のみに退職金制度を設けることの合理性を検討し、不合理な部分があれば修正する、そして、裁判例の動向を踏まえつつ定期的な修正を行っていくことになります。
しかし、退職金の原資には限りがありますから、一部の従業員の退職金が減るのであれば不利益変更となります。
この場合には、個別の同意を得るなどの確実な対応が必要となります。
長期的な展望に立ち、顧問の社会保険労務士などと相談しながらうまく対応しましょう。