残業代を支払わないリスクの大きさ

2022/04/07|1,674文字

 

法改正により違法残業の範囲が広がっています

 

<残業代未払い>

企業には残業代を支払う義務があり、サービス残業(サビ残)をさせることは違法になります。

中小企業の経営者の中には、「残業代を支払っていては経営が成り立たない」という言い訳をする人もいます。

大企業の役職者の中には、部下の残業代を100%支払っていては、業績の前年割れが発生し責任問題になるという言い訳をする人もいます。

しかし、企業が残業代を適切に支払っていない場合には、訴訟になることもあり、また、サービス残業をさせられた人による労働基準監督署への申告で行政指導を受ける危険もあります。

 

<経済的な損失のリスク>

残業代の未払いがあった場合には、労働者から裁判を起こされる可能性があります。

タイミングとしては、退職した後、しばらく経ってからということが多いものです。

本人はおとなしい性格で、とても裁判など起こしそうになかったのに、友人や親戚から「おかしい。訴えるべきだ」と強く主張されて、これに従うということがあります。

 

<付加金という制度>

未払い残業代だけ支払っても済まないことがあります。

裁判所は、本人から請求があり悪質性が認められる場合には、未払い残業代と同額の付加金の支払いを命じることがあります。

この制度によって、本来の残業代の2倍の金額を支払うことになります。

 

<不法行為責任>

残業代の未払いは、基本的に民法上の債務不履行責任の問題です。

また、労働時間の管理義務を怠ったことにより、残業代が支払われてこなかった場合には、民法上の不法行為責任が追及されることもあります。

未払い残業代請求権の消滅時効期間は3年間ですし、不法行為による損害賠償請求権の消滅時効期間も基本的には3年間です。

残業代の未払いが認定された場合には、3年分の未払い残業代の支払いが命じられる可能性があります。

 

<証拠資料は労働者に有利>

会社を出た時刻を書いた手帳の記録、帰宅時刻を書いたノート、タイムカードに印字された時刻などが、出勤時刻・退出時刻の証拠として認められています。

手帳やノートの記録が裁判の証拠になるのは、少し不思議な気もします。

しかし本来は、使用者が労働時間を適正に把握し記録する義務を負っているわけですから、これを怠っていれば、基本的には労働者の言いなりになるしかないのです。

出勤してタイムカードを打刻した後、しばらく休憩して、定時から業務を始めるのはよくあることでしょう。

また、仕事を終えて、仲間同士で雑談してからタイムカードを打刻するということもあります。

タイムカードに記録された時刻と、実際の勤務時間とが違うということは当たり前に発生しています。

しかし、裁判になれば…

「あなたの会社では労働時間の管理・記録をどうしていますか?」

「タイムカードです」

「では、タイムカードの記録で労働時間を認定します」ということになります。

こうならないためには、就業規則の規定を工夫するなどの対策が必要です。

 

<労働基準監督署の立入調査(臨検監督)>

労働基準監督署は、計画的に対象事業場を選定して調査を行います。

これに当たるのは、ある意味、運が悪いともいえます。

たとえ何か悪いことをしていなくても、経営者や担当者が調査に対応するわけですから、時間と労力の負担が発生します。

これとは別に、労働者からの申告をきっかけに行われる調査があります。

申告監督といいます。

労働基準法により、労働基準監督官は労働者の申告を受けることになっています。

現在勤務している従業員だけでなく、退職者からの申告があった場合にも、その真偽や具体的な内容を確認するために調査が行われます。

 

不思議と強気な経営者や役職者は多いものです。

そうでなければ務まらないのでしょうか。

こと残業代の未払いについては、あまりにもリスクが高すぎるように思います。

裁判は公開の法廷で行われますし、労働基準監督署が調査(監督)に入れば、残業代だけでなく、あらゆる角度から労働基準法違反の可能性を調査します。

コストを抑えて適法に経営することを考えるのが、結局のところは得だということを認識していただきたいです。

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