2021/12/29|980文字
判例の研究も大事
<労働契約法の規定>
労働契約法には、安全配慮義務について次の規定があります。
(労働者の安全への配慮)
第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。 |
労働契約法は、最高裁判所の判決の理由中に示された判断を中心にまとめられた法律です。
<最高裁の判決>
上の規定の元となったのは、昭和50(1975)年2月25日の最高裁第三小法廷の判決です。
陸上自衛隊の隊員が、自衛隊内の車両整備工場で車両を整備していたところ、後退してきたトラックにひかれて死亡し、遺族が国に対して損害賠償を請求した事件です。
この判決は、「国は、国家公務員に対し、その公務遂行のための場所、施設、器具等の設置管理またはその遂行する公務の管理にあたって、国家公務員の生命および健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務を負っているものと解すべきである」と述べています。
<安全配慮義務の根拠>
現在では、労働契約法が安全配慮義務の根拠となります。
しかし、労働契約法ができた平成19(2007)年よりも前から、安全配慮義務が認められてきました。
その根拠については、学者の間でも考えが分かれ定説というものがありませんでした。
それでも、簡単に説明すると次のようになるでしょう。
【安全配慮義務の説明】
労働契約の内容は、次のことが基本です。
・労働者は、労務の提供について債務者、賃金について債権者である。 ・使用者は、労務の提供について債権者、賃金について債務者である。 債務者の立場から、それぞれ誠実に債務を履行するのは当然のことです。
これとは別に、信義則上、債権者は債務者がうまく債務を履行できるよう配慮する義務を負っています。 ここで、「信義則」というのは、民法第1条第2項に定められた「権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない」という原則のことです。
こうして債権者には、債務者に対する次のような配慮が求められます。 ・使用者は、安全配慮義務などを負う。 ・労働者は、例えば銀行支店の統廃合により、給与振込口座に変更が生じたら、会社に届出る義務を負う。
債権者としての義務に違反したときに、債権者が被る不利益は自ら負担することになりますし、債務者に与えた不利益については賠償責任を負うことになります。 |