2022/12/04|1,353文字
<両者の優劣>
ノーワーク・ノーペイの原則は、法令には直接の根拠がないものの、労働契約の性質から当然のこととして認められています。
つまり、労働者が働かなければ雇う側に賃金の支払義務は発生しないということです。
労働契約法には次の規定があるのですが、この規定の裏返しがノーワーク・ノーペイの原則だといえます。
【労働契約の成立】
第六条 労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。 |
ところがこの原則をそのまま就業規則にとり入れず、たとえば生理休暇を有給にする、あるいは欠勤控除をしないルールとするというのは、労働者に有利となりますので労働基準法などに違反するものではありません。
そして就業規則に、法令の基準よりも労働者に有利な内容を定めた場合には、法令の基準を理由に労働条件を低下させることが許されなくなります。〔労働基準法第1条第2項〕
以上のことから、就業規則の規定が労働者に有利であれば、ノーワーク・ノーペイの原則よりも優先されるということになります。
<就業規則に定めた基準の引き下げ>
しかし、一度就業規則に定めたなら、その条件を引き上げることはできても、引き下げることは一切許されないというのは不都合を生じることもあります。
なぜなら、その規定が時代に合わなくなったり、運用が不合理になったりということは現実に起こりうるからです。
たとえば就業規則上、生理休暇を有給にして、その取得にあたっては事後の口頭による申し出でも良いというルールだったとします。
年々生理休暇の取得が増え、今では月平均1人あたり10日も使われているとしたらどうでしょう。
60代の女性でも、月5日程度なら普通に生理休暇が認められているとしたら、男性社員との間で不公平が生じているといえるでしょう。
この場合、休暇の取得にあたって口頭ではなく申請書を提出するなど、合理的な範囲内での制約を検討する余地はあるでしょう。
同様にたとえば就業規則上、欠勤控除がない職場で遅刻・早退・欠勤が多かったらどうでしょう。
まじめに皆勤している社員は、士気が低下してしまうかもしれません。
こうした状況に陥るのを防ぐため、新たに欠勤控除の規定を設けることも検討する余地はあるでしょう。
<不利益変更禁止のルール>
とはいえ、会社の都合で自由に就業規則を変更できるわけではありません。
使用者は原則として、労働者と合意することなく就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできません。〔労働契約法第9条〕
たしかに、就業規則を労働者に不利益に変更するのであれば、ひとり一人にきちんと説明したうえで、合意を得るのが理想でしょう。
そうもいかない場合であれば、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであることが客観的に認められることが必要です。〔労働契約法第10条〕
この場合であっても、労働者にもれなく説明し、期間的な余裕をもって変更したいものです。