故意と過失は客観的な認定を

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2019/11/06|1,770文字

 

<故意・過失の意味>

犯罪には故意犯と過失犯があり、たとえば、故意による傷害罪は過失傷害罪よりも犯情が重く、それだけ重い刑罰が科されます。

就業規則の懲戒規定の中にも、故意・過失という言葉が見られます。

ここで「故意」というのは、「わざと行うこと」であり、法律上は「法的に守られた利益を侵害すると認識しながらそれを容認して行為すること」をいいます。

また「過失」というのは、「うっかり行うこと」であり、法律上は「違法な結果を認識・予見することができたにもかかわらず、注意を怠って認識・予見しなかった心理状態、あるいは結果の回避が可能だったにもかかわらず、回避するための行為を怠ったこと」をいいます。

過失によって悪い結果が発生するのを防ぐには、まず、悪い結果が発生するかもしれないことを具体的に予期しなければなりません。この注意義務を結果予見義務といいます。

しかし、結果を予期したとしても、その予期した結果の発生を防がなければ、悪い結果が発生してしまいます。こうして、結果の発生を回避する義務を結果回避義務といいます。

結局、「過失」というのは、法律上、結果予見義務か結果回避義務を怠ったことをいいます。

 

<行為者の言い分による認定>

こうして見ると、「故意」も「過失」も行為者の心理状態ということになります。

ところが、行為者の心の中を直接のぞいて確認することはできません。

かといって、犯人が「うっかり火が着いて燃え広がりました」と言えば失火罪として軽く処罰され、「燃やすつもりで火を着けました」と言えば放火罪として重く処罰されるというのは不当です。

社内で懲戒を検討する場合にも、行為者本人の言い分だけを根拠に処分を決めてしまっては、不当な結果が発生しやすいことは明らかです。

 

<労災保険に未加入の事業主に対する費用徴収制度>

ところで、労働者を1人でも雇っている事業主は、労災保険の加入手続を行わなければなりません。

労災保険は、任意保険ではなく強制保険だからです。

平成17(2005)年11月1日から、労災保険未加入の事業主に対する費用徴収制度が強化されました。

これにより、事業主が労災保険の加入手続を怠っていた期間中に労災事故が発生した場合、遡って保険料を徴収する他に、労災保険から給付を受けた金額の100%または40%を事業主から徴収することになります。

 

【故意の認定基準と費用徴収】

労災保険の加入手続について、行政機関から指導等を受けたにもかかわらず、手続を行わない期間中に、業務災害や通勤災害が発生した場合には、「故意」が認定されます。

その災害に関して支給された保険給付額の100%を徴収

 

【重過失の認定基準と費用徴収】

労災保険の加入手続について、行政機関から指導等を受けてはいないものの、労災保険の適用事業となったときから1年を経過して、なお手続を行わない期間中に業務災害や通勤災害が発生した場合には、重過失が認定されます。

その災害に関して支給された保険給付額の40%を徴収

 

月給30万円の従業員(賃金日額1万円)が、労災事故が原因で死亡し、遺族の方に対し労災保険から遺族補償一時金の支給が行われる場合、その金額は賃金日額の1,000日分ですから、1千万円となります。

事業主は、上記で故意が認定された場合には1千万円、重過失の場合にはこの4割の4百万円が、国から徴収されることになるわけです。

 

ここで、重過失(重大な過失)というのは、結果の予見が極めて容易なのに結果予見義務を果たさなかった場合や、結果の回避が極めて容易なのに結果回避義務を果たさなかった場合をいいます。

このように、労災保険に未加入の事業主に対する費用徴収制度では、事業主の言い分は全く考慮されることなく、客観的な事情によって、故意・過失が客観的に認定されていることがわかります。

 

<故意・過失の客観的な認定>

自白の偏重が否定されていますから、警察は犯人の行為の他、故意・過失についても、明らかにする客観的な証拠の発見・収集が求められています。

会社は警察ではありませんが、行為者本人の言い分に振り回されることなく、行為当時の客観的な状況、上司や同僚の証言など、きめ細かい事実を確認したうえで故意・過失を客観的に認定し、懲戒処分を決定することが大切です。

 

解決社労士