シカハラ

2021/10/25|1,494文字

 

<希望者への支援>

会社が従業員に対して、自己啓発の一環として資格取得を支援するというのは、以前から行われていますし、業務との関連性の強いものは、特に支援を強化しているのが一般です。

あくまでも任意ですから、勉強時間の確保は自己責任です。

ただ、試験の当日や直前に特別休暇が設けられていることはあります。

勉強や受験に必要な経費の一部を会社が負担する場合もありますが、合格を条件として支払われることもあります。

事前申告無しに、合格したら報奨金を請求できるという仕組のこともあります。

いずれの場合も、資格取得を目指すか否かが、完全に従業員の自由に任されているわけです。

 

<資格取得を命じた場合の支援>

業務上の必要から、会社に資格者を置きたい場合には、従業員に資格取得を命じることもあります。

この場合には、資格取得に必要な行為は業務に準ずるものですから、次のような支援が必要となります。

資格取得に必須とされる教材費、受講料、受験料は会社負担とするのが妥当です。

会社指定の講習に参加させる場合には、その受講料や交通費、参加している時間帯の賃金の支払が必要です。

資格取得のためにレポートなどの提出が必要な場合には、その作成に必要な時間の賃金支払も必要です。

受験までは、業務の配分を見直して、勤務時間に勉強できるようにしたり、残業しなくても済むようにしたりの配慮も求められます。

資格取得に成功したら、昇級・昇格するとか、資格手当や金一封を支給するといったインセンティブも必要です。

 

<パワハラとなる場合>

パワハラの6類型のうちの「過大な要求」となるのが典型的です。

個人の能力や経験に照らして、難易度が高すぎる資格の取得を求め、一定の期間内に取得できなければ不利益を課すというのは明らかに「過大な要求」です。

業務との関連性が薄い資格の取得を強要したり、勤務状況から見て明らかに勉強時間を確保できないのに資格取得を求めたりするのも「過大な要求」となります。

 

<資格ハラスメントと背景>

資格ハラスメント(シカハラ)とは、会社が従業員に資格取得を強要し不当な負担を負わせたり、資格を取得できない従業員に対して減給、降格、退職勧奨、解雇などの不利益な取扱いをしたりするハラスメントです。

企業は、長年にわたって終身雇用、年功序列を前提としたメンバーシップ型雇用を行ってきました。

そこでは、企業内で役立つ能力が重視され、勤続年数や経験が能力の指標として用いられてきました。

しかし近年では、客観的に評価できる能力や仕事の成果が重視されるようになり、ジョブ型雇用も行われるようになりました。

こうした中で、資格を重視し従業員の資格取得を推奨する企業が増えた一方で、資格取得を口実とするハラスメントも顕在化するようになったのです。

 

<悪質な資格ハラスメント>

その会社の業務に無関係で難易度の高い資格取得を命じ、会社としての支援を全く行わないばかりか、長時間の残業や休日出勤を行わなければこなしきれない業務を担当させ、すぐに資格取得できないと解雇に追い込むというブラック企業もあります。

これはもう、資格取得の失敗を口実とする明らかな不当解雇です。

 

<解決社労士の視点から>

シカハラも、セクハラ、パワハラ、マタハラなどと同様に、以前から存在していたものが強く認識されるようになったものです。

その本質は、不当な嫌がらせであり、不法行為や犯罪に該当することがあります。

この場合、従業員や退職者は、企業に対して損害賠償を請求することもあります。

世間で新たなハラスメントの認識が強まるにつれ、企業の賠償責任のリスクも高まっているといえます。

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