育児休業中の就労請求権

2022/10/02|1,470文字

 

<就労請求権>

就労請求権とは、労働者が使用者に対し、実際に就労させることを請求する権利をいいます。

かつては、就労請求権を肯定する裁判例が見られました。

木南車輌製造事件(大阪地決昭和23年12月14日)では、使用者は「労働契約関係が正当な状態においてある限り、労働者が適法に労務の提供したとき、これを受領する権利のみでなく、受領する義務あるものであり、正当な理由なくして恣意に受領を拒絶し、反対給付である賃金支払をなすことによって責を免れるものではない」とされました。

高北農機事件(津地裁上野支部決定昭和47年11月10日)では、「労働契約は継続的契約関係ゆえ当事者は信義則に従い給付実現に協力すべきこと、労働者は労働によって賃金を得るのみならず、それにより自信を高め人格的な成長を達成でき、不就労が長く続けば技能低下、職歴上および昇給・昇格等の待遇上の不利益、職業上の資格喪失のような結果を受けるなど」の理由から就労請求権が肯定されています。

しかし、この判例の理論は、就労請求権が一般に認められる根拠にはならず、特殊な技能を持つなど一定の条件を満たした場合のみに妥当します。

その後、労働は労働契約上の義務であって権利ではないので、就労請求権は認められないと判断される傾向が強まってきています(日本自動車振興会事件 東京地判平成9年2月4日など)。

 

<就業規則に特別な定めがある場合>

就業規則に、労働者の就労請求権を認める具体的な規定があれば、労働者が給与を100%支給されつつ休業を命じられた場合であっても、使用者に対して実際に就労させることを請求できるのが原則となります。

また、大学の教員が学問研究を行うことは当然に予定されていることであり、就業規則全体の趣旨から、大学での学問研究を労働契約上の権利とする黙示の合意があるとされる場合には、就労請求権が認められる場合もあります(栴檀(せんだん)学園事件 仙台地判平成9年7月15日)。

ただし研究について、大学施設を利用することが必要不可欠であるとまでは言えないケースでは、就労請求権が認められていません(四天王寺仏教大学解雇事件 大阪地裁決定昭和63年9月5日)。

 

<育児休業中の就労について>

雇用保険加入者(被保険者)に対して、育児休業期間中に支給される「育児休業給付金」があります。

この給付金は、就業している日数が各支給単位期間(1か月ごとの期間)に10日以下であること、10日を超える場合には就業している時間が80時間以下であることが支給の条件となっています。

これは、使用者側の都合、業務上の必要から、育児休業中の労働者がわずかな日数、少ない時間就労したことによって、職場復帰したものとされ、受給資格を失ってしまうことを防止するための基準です。

その就労が、臨時・一時的であって、就労後も育児休業をすることが明らかであれば、職場復帰とはせず、支給要件を満たせば支給対象となります。

しかし、育児休業中の労働者に、1か月の支給単位期間に10日まで、あるいは80時間までの就労請求権が与えられているわけではありません。

あくまでも、業務上の必要に応じて、使用者側から育児休業中の労働者に臨時・一時的な出勤を要請することがあり、労働者がこれに応じて就労した場合にも、育児休業給付金を受ける資格を失わないという、雇用保険法上の配慮に基づくものです。

したがって、育児休業給付金を受給中の労働者から、使用者に対して就労させるよう請求した場合でも、使用者側は必要なければこれを断ることができるわけです。

 

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