2022/01/05|1,532文字
働き方改革で増えた一斉休業
<ノーワーク・ノーペイの原則>
「ノーワーク・ノーペイ」とは、「労働者の労務提供がなければ使用者は賃金を支払わなくてよい」という原則のことです。
これを直接規定した法令はありませんが、労働契約法には次の規定があります。
【労働契約の成立:労働契約法第6条】
労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。 |
つまり労働契約は、労働者の労働に対して使用者が賃金を支払う約束だということです。
裏を返せば、労働者が労働しなければ使用者に賃金支払義務は無いのが原則です。
ただし、使用者側に何か落ち度があれば、賃金の全額または一部の支払義務が生ずることはあります。
使用者の都合で半日休みになったときの減給がどこまで許されるかは、「使用者の都合」の中身によって結論が分かれます。
<使用者に故意・過失がある場合>
使用者に故意・過失があって、労働者が働けない場合には、賃金全額を支払うという規定が民法にあります。
この場合には、減給できないことになります。
【債務者の危険負担等:民法第536条第2項】
債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。 |
この中の「債権者」というのは、労働の提供を受ける権利がある使用者のことをいいます。
「債務を履行」というのは、労働の提供をいいます。
「債務者」は、労働を提供する義務がある労働者のことです。
「反対給付」は、労働と引換えに受取るもの、つまり賃金を指します。
使用者に明らかな故意・過失がある場合としては、次のようなものが想定されます。
・使用者が設備の法定点検を何度も怠っていたために、設備に欠陥を生じ営業時間の途中から営業できなくなった場合。
・お店のカギを開けられるのが使用者である店長のみであったのに、寝坊して大幅に遅刻したため、営業開始時間が遅くなった場合。 |
<使用者側に責任がある場合>
使用者に明らかな故意・過失が無くても、労働者には責任が無く、どちらかというと使用者側に原因がある場合には、使用者は労働者に対して平均賃金の6割以上を支払う義務があります。
この場合には、4割まで減給できることになります。
このことを定めたのが、労働基準法の次の規定です。
【休業手当:労働基準法第26条】
使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。 |
条文に使われている言葉は、民法第536条第2項も、労働基準法第26条も同じで、「責(せめ)に帰すべき事由」です。
しかし、その意味合いは、民法では故意・過失を指し、労働基準法では広く何らかの責任があることを指していると解釈されています。
使用者に明らかな故意・過失は無いものの、何らかの原因がある場合としては、次のようなものが想定されます。
・取引先の手配ミスによって材料が不足し製造ができない場合。
・景気が急速に悪化したため、新規学卒採用内定者を自宅待機させた場合。 |
<使用者側に全く責任が無い場合>
どう考えても、使用者に責任の無い理由で、労働者が働けない状態になったのなら、使用者は賃金を支払う義務がありません。
この例としては、次のようなものがあります。
・2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震の被害・影響により、計画停電が実施されたとき。
・労働安全衛生法の規定による健康診断の結果に基づいて、労働者を休業させたとき。 |