労働法の「みなし規定」

<みなし規定の効果>

法令の中に「みなす」「推定する」という言葉が使われています。

日常会話の中では厳密に区別されませんが、条文の解釈としては大きな違いが出てきます。

「みなす」という表現が使われている規定は、「みなし規定」と呼ばれます。

ある事実があった場合に、一定の法的効果を認めるという規定です。

その事実さえあれば、自動的に法的効果が発生します。

「例外的な事情があって法的効果を否定したい」と考えて証拠を集めても、法的効果を否定することができません。

「推定する」という表現が使われている「推定規定」であれば、実際はその推定が不合理であることを証明して、法的効果の発生を阻止することができるのですが、「みなし規定」では覆すことができないのです。

 

<労働法とみなし規定>

労働法では、主に労働者を保護するために「みなし規定」が置かれています。

たとえば、労働基準法第38条第2項には次の規定があります。

 

坑内労働については、労働者が坑口に入つた時刻から坑口を出た時刻までの時間を、休憩時間を含め労働時間とみなす。

 

つまり、賃金を計算するときには、労働者が坑口に入った時刻から坑口を出た時刻までのすべての時間を労働時間として計算しなければなりません。

たとえ、1日2時間の休憩時間を設けていたとしても、休憩が無かったものとして計算します。

日当を設定する場合には、1時間あたりの最低賃金に、このルールで計算した労働時間をかけ合わせて、最低賃金法違反にならないかチェックする必要があります。

 

また、年次有給休暇の付与基準である出勤率について、労働基準法第39条第8項は次の規定を置いています。

 

労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業した期間及び育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律第二条第一号に規定する育児休業又は同条第二号に規定する介護休業をした期間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業した期間は、第一項及び第二項の規定の適用については、これを出勤したものとみなす。

 

つまり、法律によって休業することが認められた日については、すべて出勤したものとみなして出勤率を計算することになります。

 

労働契約法にも、有期労働契約の無期転換(第18条第1項)と更新(第19条)に「みなす」という規定があります。

 

「常識的に見て」「実際には」などの理由で法的効果を否定できないところに、みなし規定の怖さがあります。

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