労働基準監督官行動規範の公表

2022/03/14|1,903文字

 

労働基準監督官の権限

 

<行動規範の根拠>

平成31(2019)年1月11日、厚生労働省が「労働基準監督官行動規範」を策定し公表しました。

この行動規範は、「労働施策基本方針」(平成30(2018)年12月28日)の、第2章 労働施策に関する基本的な事項 1 労働時間の短縮等の労働環境の整備 (1)長時間労働の是正 の中で示された次の一節に対応するものです。

 

労働基準監督制度の適正かつ公正な運用を確保することにより、監督指導に対する企業の納得性を高め、労働基準法等関係法令の遵守に向けた企業の主体的な取組を効果的に促すこととし、そのための具体的な取組として、監督指導の実施に際し、全ての労働基準監督官がよるべき基本的な行動規範を定めるとともに、重大な違法案件について指導結果を公表する場合の手続をより一層明確化する。

 

この行動規範が策定されたのは、働き方改革を強力に推進するための基盤づくりが目的だと思われます。

以下にその内容を見ていきましょう。

枠内は原文をそのまま引用しています。

 

<基本的使命>

私たち労働基準監督機関は、労働条件の最低基準を定める労働基準法や労働安全衛生法等の労働基準関係法令(以下、法令という。)に基づき、働く方の労働条件の確保・改善を図ることで、社会・経済を発展させ、国民の皆さまに貢献することを目指します。

 

働き方改革は、「働き手の不安を解消し満足度を高めるための多面的な施策により、国内で優良な労働力を確保するための変革」だといえます。

この中の「多面的な施策」は、働き方改革関連法(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)に示されています。

この行動規範は、労働基準監督機関が法令に基づいて、労働条件の確保・改善を図るものであることを再確認しています。

 

<法令のわかりやすい説明>

労働基準監督官(以下、監督官という。)は、事業主の方や働く方に、法令の趣旨や内容を十分に理解していただけるよう、できる限りわかりやすい説明に努めます。

 

使用者は法令の周知義務を負っています。〔労働基準法第106条第1項〕

これを助けるため、労働基準監督署などには、事業主向け、労働者向けのパンフレットなどが配置されていて、自由に持ち帰ることができるようになっています。

それでもなお、会社の実情に応じた具体的な理解まではむずかしいですから、労働基準監督官からできる限りわかりやすい説明をしていただけるということです。

 

<事業主の方による自主的改善の促進>

監督官は、法令違反があった場合は、違反の内容や是正の必要性を丁寧に説明することにより、事業主の方による自主的な改善を促します。また、法令違反の是正に取り組む事業主の方の希望に応じ、きめ細やかな情報提供や具体的な取組方法についてのアドバイスなどの支援に努めます。

 

労働基準監督官には、法令違反のあった使用者を逮捕し送検する権限が与えられています。〔労働基準法第102条〕

しかし、法令違反を発見した場合でも、すぐにこうした手続に入るのではなく、まず事業主に自主的な改善を促します。

さらに、どうしたら違法状態を解消できるかについて、労働基準監督官が具体的なアドバイスをしてくれます。

 

<公平・公正かつ斉一的な対応>

監督官は、事業主の方や働く方の御事情を正確に把握し、かつ、これを的確に考慮しつつ、法令に基づく職務を公平・公正かつ斉一的に遂行します。

 

労働基準監督官の職務遂行には、公正であることが求められます。

法令に基づき、画一的な扱いをすべきところは、平等の理念に従い斉一的に行い、また、具体的な事情の違いに配慮すべきところは、公平の理念に従い妥当な結果を導けるように対応します。

 

<中小企業等の事情に配慮した対応>

監督官は、中小企業等の事業主の方に対しては、その法令に関する知識や労務管理体制の状況を十分に把握、理解しつつ、きめ細やかな相談・支援を通じた法令の趣旨・内容の理解の促進等に努めます。また、中小企業等に法令違反があった場合には、その労働時間の動向、人材の確保の状況、取引の実態その他の事情を踏まえて、事業主の方による自主的な改善を促します。

 

中小企業等の事業主には、法令についての正しい知識や理解が不足しているために、悪意なく法令違反が発生していることもあります。

こうした事情を踏まえて、労働基準監督官は大企業の場合よりも手厚い指導を行います。

ただし「法令遵守では経営が成り立たない」など、働く人の労働条件の確保・改善を正面から否定するような考えに応じることはありません。

あくまでも、法令遵守に向けた自主的な改善を促すのが、労働基準監督官の役割です。

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