出向元と出向先の役割分担

2020/11/26|1,151文字

 

<出向の意味>

「出向」とは、他の企業の指揮監督下で労務を提供する形態の労働契約です。

元々在籍している企業を「出向元(しゅっこうもと)」、実際に勤務している企業を「出向先(しゅっこうさき)」と呼びます。

出向元から見て、他の企業に出向することを「出出向(でしゅっこう)」と呼び、他の企業から受け入れている出向を「入出向(いりしゅっこう)」と呼びます。

また、広義の「出向」には、籍を元の企業に置いたまま他の企業に出向する「在籍出向」と、元の企業の籍を失って他の企業に出向する「転籍出向」とがあります。

「在籍出向」では、出向元・出向先の両方との間で労働契約が成立しています。2つの契約には矛盾が生じうるので、これを調整するため、一般には出向元と出向先の間で出向契約という契約が交わされます。

「転籍出向」では、出向元との労働契約が解消され、出向先との労働契約のみになります。元の企業に戻る可能性は、その企業のルールや慣行によります。

ここでは、狭義の「出向」である在籍出向に限定して述べます。

 

<役割分担>

在籍出向では、出向元・出向先の両方との間で労働契約が成立していますが、労働契約に基づく指揮監督権の全部または一部が、出向元から出向先に移転するのが一般です。

ここで問題となるのは、出向労働者に対する懲戒権や解雇権が、出向元・出向先のどちらにあるかということです。

一般的には、懲戒権や解雇権は出向元に保留され、出向先で出向社員に不都合な事実が見られたときには、出向契約が解除されるとともに、あるいは解除された後に、出向元で懲戒や解雇が行われます。

具体的なことは、出向元と出向先の間で交わされる出向契約に従って決定されることになります。

労働基準法など労働法の適用関係についても、出向契約で定められた権限と責任に応じて、出向元の使用者と出向先の使用者とに振り分けられ、それぞれ責任を負うことになります。権利義務関係についても、それぞれの事案ごとに、出向契約での分配の取り決めに従って判断されます。

賃金については、直接的には出向先が支払い、最終的には出向元が負担する形にするのが一般です。

労働時間の管理、職場秩序維持に関する権限、安全配慮義務、使用者責任に基づく損害賠償責任など、出向先が直接の指揮命令権をもつ事項については、出向先に帰属するのが一般です。

なお、労災保険料については、職場の安全配慮義務を直接負っている出向先の負担となりますから、労働保険料の年度更新では注意が必要です。

雇用保険は、出向社員に賃金を支払っている事業所で適用され、その事業所で保険料を申告・納付します。

出向元と出向先の両方から賃金が支払われている場合には、より多く支払っている事業所の被保険者となり、その事業所で保険料を申告・納付します。

 

解決社労士

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