年金制度改正が企業実務に与える影響

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2020/06/16|1,984文字

 

<年金制度改正法の成立>

令和2年5月29日、「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」が成立しました。

この法律は、より多くの人がこれまでよりも長い期間にわたり多様な形で働くようになることが見込まれる中で、今後の社会・経済の変化を年金制度に反映し、長期化する高齢期の経済基盤の充実を図るためのものです。

企業実務にも大きな影響を与える内容となっています。

 

<被用者保険(厚生年金、健康保険)の適用範囲の拡大>

多様な就労を年金制度に反映するため、被用者保険の適用が拡大されます。

具体的には、短時間労働者を被用者保険の適用対象とすべき事業所の企業規模要件(現行、従業員数500人超)が段階的に引き下げられ、令和4年10月に100人超規模、令和6年10月に50人超規模となります。

賃金要件(月額8.8万円以上)、労働時間要件(週労働時間20時間以上)、学生除外要件については現行のままとし、勤務期間要件(現行、1年以上)については実務上の取扱いの現状も踏まえて撤廃し、フルタイムの被保険者と同様の2か月超の要件を適用することとなります。

加えて、5人以上の個人事業所の適用業種に、弁護士、税理士、社会保険労務士の士業が追加されます。

 

<在職中の年金受給の在り方の見直し>

在職老齢年金制度は、就労し賃金と年金の合計額が一定以上になる60歳以上の老齢厚生年金受給者を対象として、全部または一部の年金支給を停止する仕組みです。

今回の改正で、60歳台前半の在職老齢年金制度(低在老)については、就労に与える影響が一定程度確認されている観点、60歳台前半の就労、特に令和12年度まで支給開始年齢の引上げが続く女性の就労を支援するという観点、制度をわかりやすくするという利点もあるという観点から制度の見直しが行われます。

具体的には、60~64歳に支給される特別支給の老齢厚生年金を対象とした在職老齢年金制度(低在老)について、年金の支給が停止される基準を現行の28万円から65歳以上の在職老齢年金制度(高在老)と同じ47万円に合わせます。

この制度改正は、令和4年4月から適用されます。

また、65歳以上の在職中の老齢厚生年金受給者について、年金額を毎年10月に改定する在職定時改定の制度が導入されます。

これまでは、退職等により厚生年金被保険者の資格を喪失するまでは、老齢厚生年金の額は改定されませんでした。

在職定時改定の導入により、就労を継続したことの効果が、退職を待たずに早期に年金額に反映されることで年金を受給しながら働く在職受給権者の経済基盤の充実が図られます。

この制度導入も、令和4年4月からとなります。

 

<受給開始時期の選択肢の拡大>

高齢期の就労の拡大等を踏まえ、高齢者が自身の就労状況等に合わせて年金受給の方法を選択できるよう、繰下げ制度について、より柔軟で使いやすいものとするための見直しが行なわれます。

現行制度では、60歳から70歳まで自分で選択可能となっている年金受給開始時期について、その上限が75歳に引き上げられます。

繰下げ増額率は1月あたり、プラス0.7%(最大プラス84%)となります。

この制度改正は、令和4年4月から適用されます。

 

<確定拠出年金の加入可能要件の見直し>

確定拠出年金(DC)制度は、拠出された掛金とその運用収益との合計額をもとに、将来の給付額が決定する年金制度です。掛金を事業主が拠出する企業型DCと、加入者自身が拠出する個人型DC(iDeCo)があります。

公的年金制度改正にあわせて、高齢期の就労が拡大する中で長期化する高齢期の経済基盤を充実できるよう、また、中小企業を含むより多くの企業や個人が制度を活用して老後所得を確保することができるよう、次の改正が行われます。

〇2022年5月から、DCに加入できる年齢が引き上げられます。

〇2022年4月からDCの受給開始時期、確定給付企業年金(DB)の支給開始時期の選択肢が拡大されます。

〇(公布日から6か月を超えない範囲で)政令で定める日から中小企業向け制度(簡易型DC・iDeCoプラス)の対象範囲が拡大されます。

〇2022年10月から企業型DCに加入している人がiDeCoに加入しやすくなります(各企業の労使の合意が不要となります)。

 

<企業実務に与える影響>

被用者保険の適用範囲拡大は、企業の保険料負担が増額する方向で影響を及ぼします。

在職中の年金受給の在り方については、60歳以上の従業員の労働条件を考える場合、制度の見直しを踏まえた労使の話し合いが必要となります。

「給与をもらい過ぎても、年金が削られて損だから」という従来の理屈は、当てはまりにくくなります。

受給開始時期の選択肢の拡大は、「私が何歳まで働けるのか明示して欲しい」という要求につながってくるものと思われます。

 

解決社労士