年次有給休暇の賃金

2022/11/02|1,847文字

 

<労働基準法の規定>

年次有給休暇を付与した場合は、①平均賃金、②所定労働時間働いたときに支払われる通常の賃金、③健康保険法第40条第1項に定める標準報酬月額の30分の1に相当する額(1の位は四捨五入)のいずれかの方法で支払わなければなりません。

ただし、③については労働者代表との書面による協定が必要です。

また、これらのうち、いずれの方法で支払うのかを就業規則等に定めなければなりません。〔労基法第39条第7項〕

この①~③の中で、最も多く用いられているのは②の方法で、就業規則に次のような規定が置かれているのを目にします。

 

【年次有給休暇の賃金】

第〇条  年次有給休暇の期間は、所定労働時間労働したときに支払われる通常の賃金を支払う。

 

ここで「通常の賃金」とは、通常の出勤をして、その日の所定労働時間だけ労働した場合に支払われる賃金です。

 

<通勤手当の問題>

「通常の賃金」の中に通勤手当は含まれるのでしょうか。

一般には、通常の出勤・勤務を想定した賃金ですから、通勤手当も含まれます。

特に、月給制で1か月定期代を前払いで支給しているような場合には、一部分だけ定期代の払い戻しを受けることができませんから、通勤手当を削るのは不合理です。

ある会社で、年次有給休暇を取得した場合に精皆勤手当を不支給とする就業規則について、裁判で争われました。

裁判所は、こうした就業規則は「労働者が現実に出勤して労働したことの故に支払われる実費補償的性格の手当でない限り、年休制度の趣旨に反する」と述べています(大瀬工業事件 横浜地判昭和51年3月4日)。

ということは、「実費補償的性格の手当」であれば、年次有給休暇取得日に不支給とすることも制度趣旨に反しないことになります。

たとえば、就業規則で通勤手当の支払いについて「実費を後払い」と規定しているような場合には、「実費補償的性格の手当」と考えられますので、実際の出勤日数に応じた通勤手当を支給することにも十分な合理性があります。

いずれにせよ、他の規定との整合性を踏まえつつ、労使の話し合いのもとに、年次有給休暇取得日の通勤手当について、就業規則に定めておくことがトラブル予防のためには必要です。

 

<夜勤がある場合>

毎週特定の曜日に夜勤があって、夜勤手当が付いている場合、この日に年次有給休暇を取得すると、夜勤手当も支給されるのかという問題があります。

しかし、「通常の賃金」とは、通常の出勤をして、その日の所定労働時間だけ労働した場合に支払われる賃金です。

やはり夜勤手当を付けて計算するのが、一般的には合理的でしょう。

ただ、当日誰か別の人が夜勤に入り、後日、その埋め合わせで、いつもと違う曜日に夜勤に入ったとすると、夜勤予定日に年次有給休暇を取得したとき1回多く夜勤手当をもらうことになります。

これが特定の曜日ではなく、シフト制で個人ごとに夜勤が割り当てられるような場合には、話がもっと複雑になります。

こうした場合にも、他の規定との整合性を踏まえつつ、労使の話し合いのもとに、年次有給休暇取得日の夜勤手当について、就業規則に定めておくことがトラブル予防のためには必要です。

 

<日によって労働時間が違う場合>

パート社員などでは、特定の曜日だけ所定労働時間が長い雇用契約の人もいます。

いつもその曜日に年次有給休暇を取得すれば、給与の支給額が増えて「お得」ということになります。

本人が特定の曜日ばかり時季指定をしても、これを不当として使用者が時季変更権を使うことはできません。

これが特定の曜日ではなく、シフト制で月に何回か所定労働時間の長い日があるということになると、話がもっと複雑になります。

こうした場合には、所定労働時間の加重平均で年次有給休暇の賃金を計算することにも、それなりの合理性があると思われます。

法令に規定の無い、変則的な内容を就業規則に定める場合には、所轄の労働基準監督署と相談のうえ、内容を決定することをお勧めします。

 

<平均賃金という方法>

上記に現れた変則的なケースでは、「②所定労働時間働いたときに支払われる通常の賃金」ではなく「①平均賃金」で計算することを、就業規則や労働条件通知書に規定しておいた方が妥当な場合もあります。

これによってトラブルは防げるのですが、残業手当が多い場合には、「①平均賃金」が「②通常の賃金」を大きく上回る恐れもあります。

また、過去3か月の平均値を計算する手間もかかりますから、給与計算を担当する人との話し合いも必要でしょう。

 

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