増えるハラスメント(いじめ・嫌がらせ)の相談

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<個別労働紛争解決制度>

個別労働紛争というのは、労働関係に関する事項についての、個々の労働者と事業主との間の紛争のことです。

これを解決する最終手段としては、裁判制度があります。しかし、これには多くの時間と費用がかかってしまいます。また、感情的なしこりが残るものです。

そこで、職場慣行を踏まえた円満な解決を図るため、都道府県労働局では、無料で個別労働紛争の解決援助サービスを提供しています。

さらに、個別労働紛争の未然防止、迅速な解決を促進することを目的として、「個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律」が施行され、次の制度が用意されています。

・総合労働相談コーナーにおける情報提供・相談

・都道府県労働局長による助言・指導

・紛争調整委員会によるあっせん

このうち「あっせん」については、社会保険労務士のうち、特定社会保険労務士(「特定」の付記を受けた社会保険労務士)が代理人となることができます。

 

<平成30(2018)年度の状況>

令和元(2019)年6月26日、厚生労働省は「平成30年度個別労働紛争解決制度の施行状況」をとりまとめ公表しました。

これによると、「いじめ・嫌がらせ」に関する民事上の個別労働紛争の相談件数が過去最高となっています。「民事上」というのは、金銭解決や社員としての地位確認などのことを指しています。「刑事上」であれば、犯罪としての側面についての相談ですから、主に警察が対応することになります。

「個別労働紛争解決制度」は、個々の労働者と事業主との間の労働条件や職場環境などをめぐるトラブルを未然に防止し、早期に解決を図るための制度ですが、厚生労働省は、今回の施行状況を受けて、総合労働相談コーナーに寄せられる労働相談への適切な対応に努めるとともに、助言・指導及びあっせんの運用を的確に行うなど、引き続き、個別労働紛争の未然防止と迅速な解決に向けて取り組んでいくとしています。

 

【平成30年度個別労働紛争解決制度の施行状況のポイント】

1. 総合労働相談件数、助言・指導の申出件数、あっせん申請の件数いずれも前年度より増加。

 総合労働相談件数は111万7,983件で、11年連続で100万件を超え、高止まり

 ・総合労働相談件数111万7,983件(前年度比1.2% 増)

 →うち民事上の個別労働紛争相談件数26万6,535件(同 5.3% 増)

 ・助言・指導申出件数9,835件(同7.1% 増)  

 ・あっせん申請件数5,201件(同 3.6% 増)

2. 民事上の個別労働紛争の相談件数、助言・指導の申出件数、あっせんの申請件数の全てで、「いじめ・嫌がらせ」が過去最高

 ・民事上の個別労働紛争の相談件数では、82,797件(同14.9%増)

 ・助言・指導の申出では、2,599件(同15.6%増)

 ・あっせんの申請では、1,808件(同18.2%増)

 ※いずれも過去最高の件数

 

<相談件数増加の意味>

いじめ・嫌がらせの相談が増えたということは、必ずしも実際にいじめ・嫌がらせの件数が増えたということを意味するものではありません。

むしろ、次のような原因が考えられるでしょう。

 

・相談件数の増加により、心理的に相談しやすくなってきた。

・パワハラ、セクハラなど個別のハラスメントについて、その内容が明確になってきた。

・ハラスメントについての知識が普及してきた。

・ハラスメント対策について、企業間の格差が大きくなってきた。

 

企業間の格差が大きくなってきたというのは、自分と同様のハラスメントを受けている人が、よその会社では適切に対応されているのに、自分の会社では対応してもらえないという形で実感されます。

企業によるハラスメント対策の情報は、ネットで簡単に入手できるようになってきています。

 

<企業にとって最低限の対策>

就業規則の中に、各ハラスメントの分かりやすい定義があって、全従業員が理解しているという前提が無ければ、その職場には確実にハラスメントが存在することでしょう。

なぜなら、被害者は会社に被害を申し出ることができませんし、ハラスメント行為者に対して、自信をもって注意できる人もいないからです。

また、ハラスメントの禁止規定と行為に対する懲戒規定が無ければ、注意されてもやめないのは仕方のないことです。問題社員にとって居心地の悪い会社にしなければ、問題社員は増えていってしまいます。

さらに、ハラスメントを受けたと思っている従業員の相談窓口が無ければ、いよいよ耐えられなくなった従業員は退職を申し出て、ハラスメント行為者と会社、場合によっては取締役を訴えることもあります。個人情報の保護や、被害の申し出を容易にする観点から、できれば社外の専門家を相談窓口にすることをお勧めします。

 

2019.07.03. 解決社労士 柳田 恵一