副業・兼業の促進と労働時間管理の緩和

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<規制改革推進会議の動き>

令和元(2019)年5月10日、政府の規制改革推進会議が「働き方の多様化に資するルール整備について」を公表し、兼業・副業により複数の職場で働く人たちの労働時間管理について、現行制度の見直しを検討することを明らかにしました。

厚生労働省は、「働き方改革実行計画」を踏まえ、副業・兼業の普及促進を図るために、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を公表しましたが、大きな進捗が見られません。

この理由として、伝統的な日本の働き方に基づき、厳密な時間管理を求める旧来の労働法の制約が大きいのではないかと考えられています。

「働き方の多様化に資するルール整備について」では、改善の方向性が次のように示されています。

 

<副業・兼業の促進>

厚生労働省は、平成30(2018)年1月にモデル就業規則を改定し、届出により副業・兼業ができることを原則としました。

しかし、大半の企業は副業・兼業を原則禁止とする立場を変えていません。

 

<割増賃金の問題>

この理由の一つとして、複数の事業場での労働時間を通算し、合計の労働時間に対して、法定時間外労働の割増賃金の支払いが求められることが考えられます。

その根拠は、昭和22(1947)年に定められた労働基準法第38条です。

実際には、主たる勤務先の使用者が副業・兼業先での労働時間を通算するのは困難であり、労働者の自己申告を前提としても、この困難は解消されません。

また、法定時間外労働は「後から結ばれた労働契約」で発生するという解釈に基づき、副業での使用者が割増賃金を支払うことになっています。

ところが、法定労働時間の趣旨は、同一の使用者が過度に時間外労働に依存することを防止することにあり、現在の解釈は適切ではない面もあります。

 

<労働者保護の観点>

副業・兼業について労働時間を通算するとなると、労働者が法定時間外労働への制約を避けるため届出を怠ったり、業務委託(請負・委任)など雇用類似の「非雇用型」へと逃避したりする可能性があります。

これでは、労働者を保護するための労働基準法などが適用されないなど、望ましくない現象が生じてしまいます。

 

<健康管理の観点>

EU諸国では、労働者の健康確保のための時間規制と割増賃金制度とを切り離していて、副業・兼業で労働時間を通算する場合にも、割増賃金制度を適用していません。労働者の健康管理に焦点をあてて労働時間管理を行おうとしています。

日本では、これまで割増賃金制度が長時間労働を抑制するものとして機能してきました。しかし、労働者が自ら選択する副業・兼業の場合には、割増賃金制度適用のために、異なる事業主間で労働時間を通算するという解釈は見直すことが適当ではないかと考えられます。

 

<規制改革推進会議の提言>

労働時間の把握・通算を行う趣旨・目的を再定義し、以下の対応を行うべきではないか。

 

①上記の解釈の根拠となる1948年の通達を改定し、労働時間の通算規定は同一事業主の範囲内でのみで適用し、自己の自由な選択に基づき働く労働者を雇用する、他の事業主には適用しないこと

②主たる事業主は健康確保のための労働時間把握に努めるものとすること

 

<提言の妥当性>

複数の事業場での労働時間を通算するというのは、決して現実的な話ではありません。

ほとんどの企業は、ダブルワークとなることを知っていながら採用した従業員について、他の事業場と連絡を取り合って労働時間を管理してはいません。

労働時間の通算についての労働基準法第38条を意識する企業は、ダブルワークとなる応募者を採用したがりませんから、応募者もダブルワークとなることを隠して採用されようとします。

また、働き方改革の観点から、健康管理を理由とする労働時間の管理や時間外労働の制限が導入されるようになってきました。

これらのことから、上記の提言は、極めて妥当だと思われます。

 

2019.05.16. 解決社労士 柳田 恵一