2022/03/04|1,379文字
不注意による労災の防止
<労働基準法の規定>
労働基準法の「第八章災害補償」には、業務災害について次のような規定があります。
【療養補償】
第七十五条 労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかった場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければならない。 |
労働基準法には、他にも休業補償〔第76条〕、障害補償〔第77条〕、遺族補償〔第79条〕などの規定があります。
<労災保険法の規定>
労災保険法(正式名称:労働者災害補償保険法)は、労災保険の目的を次のように規定しています。
【目的】
第一条 労働者災害補償保険は、業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするため、必要な保険給付を行い、あわせて、業務上の事由又は通勤により負傷し、又は疾病にかかった労働者の社会復帰の促進、当該労働者及びその遺族の援護、労働者の安全及び衛生の確保等を図り、もつて労働者の福祉の増進に寄与することを目的とする。 |
一見して、労災保険法の方が労働基準法よりも、労働者の保護に手厚いことが分かります。
特に注目したいのは、労働基準法が業務上の負傷等である業務災害のみを対象としているのに対し、労災保険法では通勤途上の負傷等である通勤災害も対象となっている点です。
業務による災害が業務災害、通勤による災害が通勤災害、両者を併せて労働災害と呼んでいます。
労働基準法にあるように、使用者は労働者の業務災害について責任を負っています。
設備、機械、道具などの不備・不良や労働者の教育不足など、使用者が責任を負うべき原因で発生することが大半ですから当然のことです。
これに対して、通勤災害については、原則として使用者に責任がありません。
雨の日に駅の階段が滑りやすいことや、交通ルールを守らないドライバーが存在することまでは、使用者に責任を問えません。
こうした事情から、傷病について必要な療養の給付を受ける場合にも、業務災害であれば療養補償給付、通勤災害であれば療養給付と呼んで区別しています。
使用者の補償義務の有無に応じたものです。
実際に保険給付を受ける場合の請求書等のフォーマットも、「療養補償給付たる療養の給付請求書」「療養給付たる療養の給付請求書」などと区別されています。
通勤災害では、通勤経路や災害の発生場所を地図で示す必要がありますから当然でしょう。
<民法による損害賠償請求との違い>
まず、労災保険は過失相殺が無い点で被災者に有利です。
被災者の過失割合を認定し、これに応じて給付するのではなく、過失は無いものとして給付します。
もっとも、故意に事故を発生させたような場合には給付が受けられません。〔労災保険法第12条の2の2〕
また、労災保険は損益相殺が無い点も被災者に有利です。
被災者が休業し通勤できない場合であっても、通勤費を含む賃金を基準に休業(補償)給付を受けることができます。
ただ、労災保険では慰謝料の請求ができませんから、この点では被災者に不利です。
多くの業務災害では、被災者にも相当程度の不注意が認められ、労災保険の給付を受ければ救済されることが多いでしょう。
しかし、使用者側の落ち度が重大で、保険給付だけでは被災者や遺族が救済されない場合には、使用者に民事訴訟を提起して不足分の損害賠償を求めることも行われています。