使用者による障害者虐待が増加傾向

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<厚生労働省の発表>

平成30年8月22日、厚生労働省が「平成29年度使用者による障害者虐待の状況等」を取りまとめ公表しました。

労働基準監督署の上位の行政機関である都道府県労働局は、「障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律」(以下「障害者虐待防止法」)に基づき、都道府県などの地方公共団体と連携し、障害者を雇用する事業主や職場の上司など、「使用者」による障害者への虐待の防止や、虐待が行われた場合の関係法令に基づく是正指導などに取り組んでいます。

厚生労働省では、今回の取りまとめ結果を受けて、引き続き、地方公共団体との緊密な連携を図りながら、使用者による障害者虐待の防止のために取り組んでいくとのことです。

 

【ポイント】

 

1 通報・届出のあった事業所数、通報・届出の対象となった障害者数はいずれも前年度と比べ増加。

・通報・届出のあった事業所数    1,483事業所 (前年度比 12.7%増)

・通報・届出の対象となった障害者数    2,454人  ( 同 44.6%増)

 

2 虐待が認められた事業所数、虐待が認められた障害者数はいずれも前年度と比べ増加。

・虐待が認められた事業所数              597事業所 (前年度比 2.8%増)

・虐待が認められた障害者数               1,308人  (   同  34.6%増)

 

3 受けた虐待の種別は、経済的虐待が1,162人(83.5%)と最も多く、次いで心理的虐待が116人(8.3%)、身体的虐待が80人(5.7%)となっている。

 

 

<使用者とは>

使用者とは、法律の定義によると次のとおりです。

 

「この法律で使用者とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう。」〔労働基準法10条〕

 

ここでいう「事業主」とは、個人事業なら事業主ですし、会社なら会社そのものです。「事業の経営担当者」とは、代表者、取締役、理事などです。

「その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者」の中に、人事部長や労務課長などが含まれることも明らかです。

「使用者」というと、会社にいる人の一部というイメージなのですが、「労働基準法に基づく申請などについて事務代理の委任を受けた社会保険労務士が、仕事をサボってその申請などを行わなかった場合には、その社会保険労務士は労働基準法10条の使用者にあたり、労基法違反の責任を問われる」という内容の通達もあります。〔昭和62年3月26日基発169号〕

結局、労働基準法の他の条文や通達を全部合わせて考えると、「使用者」とは労働基準法で定められた義務を果たす「責任の主体」だということがわかります。

社会保険労務士は会社のメンバーではないのですが、労働基準法で義務づけられていることを、会社の代わりに行う場合には、その業務については「使用者」になるわけです。

また、人事部の中の担当者やお店で人事関係の事務を扱う人は「労働者」なのですが、労働基準法で義務づけられたことを行う場合には、その業務については「使用者」でもあるわけです。

 

<障害者雇用促進法に基づく合理的配慮指針>

さて、障害者の雇用の促進等に関する法律は、昭和35(1960)年に障害者の職業の安定を図ることを目的として制定されました。

そして、労働者の募集・採用、均等待遇、能力発揮、相談体制などについて定められ〔36条の2~36条の4〕、事業主が講ずべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針が定められるとしています。〔36条の5〕

また、平成28(2016)年4月の改正障害者雇用促進法の施行に先がけて、合理的配慮指針が策定されています。(平成27(2015)年3月25日)

 

※正式名称は、「雇用の分野における障害者と障害者でない者との均等な機会若しくは待遇の確保又は障害者である労働者の有する能力の有効な発揮の支障となっている事情を改善するために事業主が講ずべき措置に関する指針」と長く、具体的な内容を示すものですが、ここでは「合理的配慮指針」と呼びます。

 

この指針は、全ての事業主が障害者と障害者でない者との均等な機会の確保の支障となっている事情を改善するため、労働者の募集及び採用に当たり障害者からの申出により当該障害者の障害の特性に配慮した必要な措置を講じなければならないとしています。

また、障害者である労働者について、障害者でない労働者との均等な待遇の確保又は障害者である労働者の有する能力の有効な発揮の支障となっている事情を改善するため、その雇用する障害者である労働者の障害の特性に配慮した職務の円滑な遂行に必要な施設の整備、援助を行う者の配置その他の必要な措置を講じなければならないとしています。

 

この内容からすると、たとえば視覚障害者に対しては、募集や採用試験にあたって点字や音声等による実施が求められることになります。

また、たとえば精神障害者に対しては、業務の優先順位や目標を明確にし、指示を一つずつ出す、作業手順を分かりやすく示したマニュアルを作成し使用することや、本人の状況を見ながら業務量等を調整することなどが求められます。

 

人手不足の折、中小企業で障害者雇用の採用を考えた場合に、上記のような対応を求められたのでは、なかなか採用に踏み切れないでしょう。

実は、障害者雇用促進法の募集・採用、均等待遇、能力発揮についての規定には、「ただし、事業主に対して過重な負担を及ぼすこととなるときは、この限りでない」という但し書きが添えられています。〔36条の2、36条の3〕

これを受けて、合理的配慮指針にも、同様の内容が加えられています。

つまり各企業には、その規模や体力に応じた対応が求められているのであって、決して無理を強いられているのではないということです。

 

中小企業では、募集・採用にあたって経費のかかる配慮をしたり、勤務にあたって高額な設備を設けたりということではなく、相談相手を決めて親切に相談に応じるとか、チューター制度を設けてマンツーマンの指導を受けるようにするなどの配慮が求められています。

 

<経営者の責務>

法令や通達・指針によって、経営者には障害者に対する一定の配慮が求められているわけですから、使用者が隠れて障害者を虐待しないように監視する責務を負っています。

使用者が経営者から受けるストレスを、障害者にぶつけて解消するという現象も見られます。

経営者は、使用者のストレスも適切にチェックしていかなければなりません。

 

2018.08.26.解決社労士