労災隠しで書類送検

2023/11/30|1,093文字

 

<建設会社と社長を書類送検>

青梅労働基準監督署は、建設会社とその代表取締役社長を、労働安全衛生法違反(労災隠し)の容疑で、東京地方検察庁立川支部に書類送検したことがあります。

この事件では、会社と社長の両方が書類送検されています。

こうした場合には、会社も社長個人も信用を失ってしまいます。

 

<逮捕・送検の理由>

労災事故は、JR五日市線熊川駅と東秋留駅間の多摩川に架かる橋梁下右岸河川敷(東京都あきる野市平沢)での立木伐採工事で起こりました。

このとき、建設会社の労働者Bが伐採した立木の幹が落下して、付近で作業を行っていた同社所属の労働者Aの頭部から背部に激突したのです。

その結果Aは、3か月の治療を要する怪我を負い、負傷の翌日から休業しました。

本来であれば、青梅労働基準監督署長に遅滞なく「労働者死傷病報告書」を提出しなければなりませんでした。

しかし、この建設会社は、災害発生からおよそ5か月が経過してから報告書を提出しました。

これが逮捕・送検の理由です。

労災事故のうち、被災者が3日を超える休業をした場合には、「労働者私傷病報告書」の提出が義務付けられています。

しかし、頻繁に提出が必要となる書類ではありませんから、提出義務すら認識されていないことがあります。

それでも、遅滞なく提出しなければ、意図的に提出しないものと見なされ、労災隠しと評価されうるのです。

 

<逮捕・送検の背景>

行政の立場からすると「労災隠し」が行われることは、災害原因究明、同種災害の防止対策の確立など、労働者の安全を確保する機会を失わせるほか、被災労働者が適正に労災補償を受ける権利を侵害することに繋がるということになります。

そこで、労働基準行政では「労災隠し」の排除を推進し、あらゆる機会を通じて事業者に「労働者死傷病報告」の提出を周知・啓発しています。

もちろん、こうした行政の動きは、一般には分かりにくいものですが、行政が「労働者死傷病報告」の提出を周知・啓発しているにもかかわらず、きちんと提出しなければ、それは労災かくしであると評価されやすいのです。

 

<実務の視点から>

会社の人事担当者は、労働法を中心とする法改正には敏感だと思います。

しかし、労働局や労働基準監督署がどのような手続について周知・啓発を強化しているかについてまでは、気が回らないかもしれません。

それでも、こうしたことに目を光らせていないと、今まで大丈夫だったことが逮捕・送検の対象となっていることに気付きません。

会社を守るためにも、労災が発生したときには、必要な手続きと再発防止について、信頼できる社労士(社会保険労務士)にご相談ください。

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