<突然の退職申し出>
入社2年目のエース社員から、社長に退職願が提出されました。
「今日は16日ですから、月末退職でOKですよね。」と何だかうれしそうです。聞けば大学の先輩を通じて、大手企業にスカウトされたとか。先月結婚したのも転職が決まったからだそうです。
社長としては、辞めてほしくないですし、せめてきちんと引き継ぎを終わらせてほしいです。
<ひな形の規定>
これは、ネットから就業規則のひな形をコピーして、少しアレンジして使っていると起こりうる事件なのです。
あるひな形には、次のように書いてあります。
(退職)
第50条 前条に定めるもののほか、労働者が次のいずれかに該当するときは、退職とする。
① 退職を願い出て会社が承認したとき、又は退職願を提出して14日を経過したとき
〔厚生労働省のモデル就業規則平成31年3月版〕
もっともよく使われているひな形だけあって、さすがに良く出来ています。
よく見ると、退職を願い出て「会社が承認したとき」と書いてあります。では、会社が承認しなければ良いのでしょうか。
また、「14」には下線が引かれていますから、これを「100」に修正しても良いのでしょうか。
<注意書きに注意>
厚生労働省のモデル就業規則には、次のような注意書きがあります。
期間の定めのない雇用の場合、労働者はいつでも退職を申し出ることができます。また、会社の承認がなくても、民法(明治29年法律第89号)の規定により退職の申出をした日から起算して原則として14日を経過したときは、退職となります(民法第627条第1項及び第2項)。
なお、月給者の場合、月末に退職を希望するときは当月の前半に、また、賃金締切日が20日でその日に退職したいときは20日以前1か月間の前半に退職の申出をする必要があります(民法第627条第2項)。
もっともよく使われているひな形だけあって、さすがに手抜かりは無いのです。
ところが、専門家ではない人が、この大事な注意書きを読み飛ばしてしまいます。その結果、思わぬ事態を招いてしまうのです。
特にここでは、労働基準法などではなく、民法の規定がポイントとなります。
<引き継ぎのポイント>
きちんと引き継ぎを完了させるには、次のようなことがポイントとなります。
・普段から退職や異動を想定して、短期間で引き継ぎを完了できるようにしておくこと
・退職にあたっては、引き継ぎを完了することが重要な業務であることを、就業規則にも明示しておくこと
・引き継ぎの拒否は、懲戒処分の対象となることを就業規則に規定すること
そして、年次有給休暇の取得を申し出たとしても、会社が時季変更権を行使できないような場合には、権利の濫用としてこれを拒否することが考えられます。ただ、円満に解決するには、年次有給休暇の買い取りも検討したいところです。
<突然辞められないためには>
これには地道な努力が求められます。つぎのようなことがポイントとなります。
・社員が自分の将来を思い描ける人事制度の構築(想定キャリアの明確化)
・経営理念の明確化と理解のための教育研修
・会社の魅力の抽出と社員へのアピール
・社員同士のコミュニケーションを密にし維持する仕組みづくり
2019.05.17. 解決社労士 柳田 恵一