能力不足社員や問題社員の給与を減額したい

2022/11/21|1,322文字

 

<法令や判例の動向>

能力不足や問題社員であることを理由に、社員の給与を減額することについては、労働基準法や労働契約法などの労働法に規定がありません。

また、どのような場合に、どの程度まで給与の減額が許されるかという基準を示した判例もありません。

ただ、会社側が行った給与減額が不当であるとして、社員側が会社側に損害賠償を請求する民事訴訟を提起した場合には、個別の事案に則した判決が下されることになります。

この場合には、客観的に合理的な根拠を欠く減額により実際に支給された給与額と、あるべき給与額との差額が損害額として認定され、社員への支払命令が会社に下されることとなります。

 

<社内の基準>

法令や判例が具体的な基準を示していない以上、会社が独自に基準を設定し、この基準の運用によって、給与の減額が行われることになります。

会社側の恣意的な減額であるとの批判を避けるには、適正な人事考課制度の運用、賃金テーブルのある給与規程の存在と適用が必須となります。

 

<適正な人事考課制度の運用>

「能力不足」とはいうものの、能力そのものを直接評価することは困難です。

実際には、能力不足を強く推認させる事実の蓄積によって、能力不足を認定することになります。

この場合、入社して配属されたばかりの時期や、昇進を含め異動して一定の期間を経過していない時期にパフォーマンスが低い場合など、一律の基準を適用したのでは不合理とみられることもあります。

「問題社員」についても、「問題社員」であることそのものを認定するのではありません。

問題行動や問題となる態度といった事実の蓄積によって、問題性の程度が認定されます。

たとえば、ある社員がたびたび上司に反抗的な態度をとっている場合、事実の蓄積によって安易に「問題社員」と断定することは妥当ではありません。

その部署の何人かが、同じ上司に反抗的な態度をとっているような場合には、上司の側に原因があることも多いでしょう。

また、部下の1人が同僚をそそのかして、上司に反抗的な態度をとらせていることもありえます。

結局、社員に問題行動が見られた場合には、どのような事情があってそうした行動をとったのかを確認し、注意・指導を行うとともに適正な事実認定を行う必要があります。

 

<賃金テーブルのある給与規程>

給与規程に基づいて給与の減額を行った場合であっても、減額された金額に具体的な根拠がなく、経営者のさじ加減によって減額幅が決定されたものと疑われたのでは、給与規程の適正な運用とはいえません。

給与規程に、どのような評価が、どれだけの期間続いたら、何段階減額するといった適正な規定があり、賃金テーブルによって具体的な金額が明らかとなっていることが必要です。

 

<給与減額を可能とすることの必要性>

会社への貢献度が高い社員に対しては、納得のいく昇給をしてあげたいものです。

しかし、低成長時代の今、限られた賃金原資の中でやりくりするには、能力不足社員・問題社員の給与減額を考えざるを得ないこともあります。

こうした場合に備えて、労働基準法の定める減給の制裁の制限(労働基準法第91条)を超える給与減額を適正にてきるよう、体制を整えておいてはいかがでしょうか。

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