遅刻を理由に解雇は危険です

2022/09/01|2,027文字

 

<理由による対応の違い>

遅刻の理由を確認することなく叱責したり、懲戒を検討したりは以ての外です。

ましてや、解雇を通告すれば不当解雇となります。

家庭内のプライベートな事情や、交通機関の遅れなど、本人に責任を問えない理由で遅刻した場合には、責めることができません。

反対に、深夜まで深酒したり、オンラインゲームに熱中したりで、明け方から眠りについて寝坊したのが遅刻の理由であれば、言い逃れができません。

現実には、このような極端なケースではなく、本人の帰責性について判断に迷う理由も多いものです。

プライバシーの侵害とならない範囲で、なるべく具体的な理由を確認し、本人の責任の程度と再発防止策検討の資料とします。

もちろん嘘はいけませんから、言い訳に多くの矛盾があったり、後日、虚偽が発覚したりの場合には、それ自体が叱責や懲戒の対象となりえます。

就業規則の遅刻を禁止する規定に、「正当な理由なく」という文言が入っていなければ、これを加えておくべきです。

 

<事前連絡による対応の違い>

同じ遅刻でも、かなり早く会社に連絡があれば、遅刻を予定した対応を取ることが可能です。

ところが、何の連絡もなしに遅刻した社員がいれば、上司や同僚の心配もさることながら、仕事の計画が狂い、しかも計画の立て直しも困難になってしまいます。

こうした観点からは、無断遅刻は最も許しがたく、反対に、数日前からの予告のもとに遅刻するのは咎められないといえるでしょう。

就業規則にも、「やむを得ず遅刻する場合には、なるべく早く上長に連絡し、その承認を得ること」などの規定を置いておくことが望ましいでしょう。

 

<適切な注意指導>

遅刻は、それ自体が労働契約違反ですから、非難の対象となります。

まじめに本来の始業時刻から業務を開始している社員から不満も出ますし、会社が遅刻に対して厳正な態度を取らなければ、社員全体の士気が低下してしまいます。

このことから、遅刻の理由、事前連絡の状況、遅刻の頻度などを踏まえ、遅刻した社員には上司からの具体的な注意指導が必須となります。

注意指導は、本人の反省を促し改善の機会を与えるとともに、懲戒や解雇の前提となるものです。

実際に、懲戒や解雇へと進み、その有効性が問われた場合には、注意指導の証拠資料が威力を発揮しますので、その内容を文書化して保管し、できれば対象者の確認を得ておくことが望ましいものです。

ただし、注意指導の内容や態様がパワハラに該当してしまうと、それ自体が問題となりますから注意が必要です。

 

<懲戒処分の検討>

遅刻を懲戒の対象とするには、就業規則に具体的な懲戒規定が必要です。

たとえば、「正当な理由なくしばしば欠勤、遅刻、早退をしたとき」という規定であれば、1回か2回の遅刻で懲戒の対象とすることは、「しばしば」という言葉の意味に反しますから、客観的に合理的な理由による懲戒とはなりません。

しかし、たとえ1回の遅刻であっても、お得意様への重要な対応などを予定していながら遅刻し、そのお得意様が立腹してライバル会社に乗り換えてしまったような場合に、「過失により会社に損害を与えたとき」のような規定があれば、こちらの規定が適用できるでしょう。

このように懲戒規定全体を見渡して、具体的事実に適合する規定を根拠とする懲戒とする必要があります。

遅刻が、基本的に過失による行為であることを考えると、遅刻を繰り返し、注意指導によっても改善されないとしても、懲戒解雇というのは行き過ぎであり、不当解雇となる可能性が極めて高いといえます。

 

<配置転換の検討>

遅刻の許容度というか、遅刻が許されない職場・職種もあれば、そこまで厳密に考える必要のない職場・職種も想定されます。

この違いから、遅刻の許されない社員が遅刻する場合には、他部署への配置転換も検討の対象となります。

 

<退職勧奨>

注意指導を繰り返しても、遅刻が改善されない場合で、配置転換を考える余地がないときには、退職勧奨を行うことも考えられます。

ここまで来ると、二度と遅刻しないように最大限の努力を行うか、自ら退職を申し出るかの選択に迫られることになります。

 

<普通解雇>

遅刻は、労働契約上の始業時刻に、業務を開始していないのですから労働契約違反です。

つまり、労務提供についての債務不履行ということになります。

そして、債務不履行が重大であれば、普通解雇の理由ともなります。

しかし、労働契約上の所定労働時間の殆どについては、債務不履行がないと考えれば、遅刻を理由として普通解雇を通告するのは行き過ぎでしょう。

 

<解決社労士の視点から>

人事考課制度が適正に運用され、一定期間ごとに、遅刻の回数、時間、影響などが正しく評価されていれば、自ずと待遇に差が生じてきます。

これによって、遅刻を繰り返してきた本人から退職を申し出ることもあるでしょうし、また過去から現在に至るまでの評価結果を根拠に、説得力のある退職勧奨も可能となります。

 

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