精神疾患の原因はパワハラじゃないのに

2022/06/25|944文字

 

<パワハラによる労災認定>

現在の「心理的負荷による精神障害の認定基準」には、「パワーハラスメント」の出来事が「心理的負荷評価表」に追加されています(令和2年5月29日付基発0529第1号通達)。

業務により精神障害を発病した可能性のある人に対しては、この基準が適用されて労災保険適用の有無が検討されます。

ですから、パワハラを受けたという思い込みが原因で精神障害を発病した場合には、「パワハラによる労災」が認定されないことになります。

 

<パワハラではない嫌がらせなどによる労災認定>

しかし、「心理的負荷による精神障害の認定基準」には、パワーハラスメントに該当しない優越性のない同僚間の暴行やいじめ、嫌がらせ等を評価する項目として次のような項目が掲げられています。

 

【強いストレスと評価される例】

 同僚等から、治療を要する程度の暴行等を受けた場合

 同僚等から、人格や人間性を否定するような言動を執拗に受けた場合

 

この基準に該当すれば、パワハラではないものの、やはり労災保険の適用対象となることもあるわけです。

 

<思い込みによる精神障害に対する会社の責任>

改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)は、事業主に次のことも義務づけています。

・職場におけるパワハラの内容を明確化し労働者に周知・啓発すること

・相談窓口をあらかじめ定め労働者に周知すること

・相談窓口担当者が、相談内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること

つまり、会社がこれらのことを怠っていたことによって、パワハラではないことをパワハラであると思い込み、思い悩んで精神障害を発病するに至ったのであれば、会社にも責任があるといえます。

会社が義務を怠ったことと、精神障害の発病との間に因果関係が認められるのであれば、会社が責任を問われることもあります。

 

<実務の視点から>

改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)によって、パワハラの定義が法定され、事業主の防止対策義務が明確化される前は、従業員が思い込みで精神障害を発病しても会社の責任が問われることは稀だったでしょう。

しかし法改正後の現在では、同様の事案についても、会社の責任が問題となるケースが増えています。

こうしたことからも、会社のパワハラ防止対策は積極的に取組む必要があるのです。

 

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