業務委託に雇用の認定

2022/06/08|1,422文字

 

<請負契約のメリット・デメリット>

大手企業でも、雇用契約を請負契約に切り替える動きが見られます。

請負契約の場合、働く人のメリットとしては、細かい指図を受けずに伸び伸びと自由に働けること、自分の自由な時間で働けること、成果に応じた報酬が得られることなどがあります。

こうしたメリットに着目して、社員が請負契約への切り替えに同意するわけです。

しかし、雇用ではありませんから、労働基準法を始めとする労働法の保護の対象外となりますし、社会保険や労働保険も基本的には対象外となります。

また、年次有給休暇や産休・育休などもありません。

こうしたデメリットは覚悟しておく必要があります。

この裏返しとして、請負契約にすれば、企業は社会保険料や労働保険料の負担が無くなりますし、使用者としての責任は免れることになります。

一方で、企業は細かい指示を出せなくなりますし、予定外の「残業」のようなことも命ずることはできなくなります。

 

<名ばかり業務委託契約>

企業と個人とが請負契約を交わす場合、一般には「業務委託契約」という名称が用いられます。

業務を委託する企業と、業務を行う人との契約関係が、実質的には雇用契約〔民法第623条〕なのに、契約書のタイトルが業務委託契約書となっていることもあります。

もちろん、労働審判や労働訴訟になれば、契約書のタイトルにかかわらず、その実態から雇用契約であると認定され、働き手は労働者としての権利が保障されることになります。

契約書の体裁だけを整えても、その通りの効果が認められるわけではないということです。

 

<労働基準監督署の介入>

ネット通販「アマゾン」の荷物の宅配について、ある運送会社と個人事業主であるドライバーとの間で業務委託契約が交わされていました。

ところが、労働基準監督署がこの運送会社に、労働基準法違反で是正勧告したことが報道されています。

是正勧告ですから、労働基準監督署が労働法違反だと判断し、運送会社に是正を求めたことになります。

運送会社からドライバーに対してルートを指定し、予定外の配達を急に指示し、制服の着用も求めていたという実態があります。

また、「事務管理料」を報酬から控除していましたが、これも給与からの控除とは異なり許されていないことです。

これらの実態から見て、業務委託契約(請負契約)ではないと判断され、労働基準監督署から労働法違反を指摘されたわけです。

 

<解決社労士の視点から>

物流業界では、宅配荷物の急増と人手不足を背景に、運送会社が個人ドライバーに宅配業務を委託する件数が急増しています。

運送会社と個人ドライバーとは、1日いくらという固定料金で宅配の業務委託契約を交わしていることが大半です。

しかし、その実態に照らして雇用契約と判断され、労働法違反を指摘されることが一般化すれば、物流業界全体で身動きが取れなくなる恐れさえあります。

最終的には、司法判断を待つことになりますが、今後の動向を注視せざるを得ません。

労働基準監督署(労働局)としては、目に余る事態と考えて対応したものと思われます。

これまでグレーゾーンで、同業他社のどこもが行っていたことに対して、一気に行政のメスが入って一網打尽ということがあります。

対応しきれない企業が業界から姿を消すことは、やむを得ないという考えでしょうけれど、業界全体が縮小すると国民の生活にも重大な影響が出てしまいます。

そこまでは、配慮していただけないのかもしれません。

 

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