上司の連帯責任

2022/04/14|1,286文字

 

懲戒処分が許される根拠はなんなのか

 

<懲戒規定が無ければ>

部下が不都合な行為で懲戒の対象とされた場合、これを理由に上司が懲戒の検討対象とされるには、就業規則に根拠規定が必要です。

この点、厚生労働省が公表しているモデル就業規則の最新版(令和3(2021)年4月版)には、こうした場合を想定した規定がありません。

しかし企業によっては、就業規則に「職務を執行するに当たって、部下の指導監督に不行届きの事実があったとき」を懲戒の対象とする旨の規定を置いている場合があります。

そして、こうした規定の無い企業では、上司が直接懲戒規定に触れない限り、部下の指導監督が不足していたことを理由に、懲戒の対象にはできないことになります。

 

<懲戒規定があっても>

就業規則に、部下の指導監督不足を懲戒の対象とする旨の規定があったとしても、それだけで上司が当然に懲戒されることの正当性が導かれるわけではありません。

懲戒というのは、故意・過失によって企業に損害をもたらし、あるいは損害をもたらす危険を発生させた場合に可能となるものです。

ですから、部下の不都合な行為について、上司がこれを防止するために管理監督する具体的な義務・責任が無いのであれば、懲戒の対象とされるのは合理性が無いことになります。

たとえば部下が、休日や勤務時間外のプライベートな時間に、不都合な行為を行ったとしても、基本的には、上司の指導監督権限が及びませんので、原則として上司の責任を問えないことになります。

 

<上司が責任を負い懲戒の対象となりうる場合>

上司が管理監督の責務を果たさなかったから、部下が不都合な行為に及んでしまった、裏を返せば、上司が管理監督の責務を果たしていたなら、部下が不都合な行為に及ぶことは無かったといえる場合には、上司が責任を負い懲戒の対象となりうるわけです。

たとえば、上司が部下の就業規則違反行為や懲戒対象となる行為を黙認していて、注意指導を怠っていた場合には、これに該当します。

 

<時期的な相違の問題>

会社で何か不祥事があった場合には、それが発覚した時の代表取締役が引責辞任するということがあります。

これは、そうすることで世間一般の会社に対する非難をある程度かわすことができると考えて、政策的に行っているわけです。

しかし、会社との関係が委任契約である代表取締役と、会社との関係が労働契約である社員とを同じ理屈で律することはできません。

上司に該たる人は、労働者として労働法による保護を受けているわけです。

ですから、ある社員が就業規則違反を犯した時に、たまたま上司であった社員が連帯責任を負うというのは理由が無いわけです。

上司の管理監督責任が問われる場合であっても、いつの上司の責任なのかは確認が必要だということです。

 

<解決社労士の視点から>

社員が重い懲戒処分を受ける時に、その上司も自動的に懲戒の対象となるのが、ある程度慣行となっている企業もあります。

しかし、上司が連帯責任を負う、あるいは無過失責任を負うというのは、法的根拠がありません。

これは懲戒権の濫用であり、懲戒が無効ということになりますので、悪しき慣行は改める必要があります。

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