不当解雇の主張と会社の対応

2022/03/23|1,698文字

 

証拠不足で懲戒解雇

 

<法令による解雇の制限>

そもそも法令によって解雇が制限されているものとして、次のようなものが有名です。

こうした解雇制限に該当する場合には、解雇を通告しても、解雇が無効となります。

 

・労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によって休業する期間(法定の産前産後休業期間)及びその後三十日間は、解雇してはならない。〔労働基準法第19条第1項〕

・労働者が労働組合の組合員であること、労働組合に加入し、若しくはこれを結成しようとしたこと若しくは労働組合の正当な行為をしたことの故をもつて、解雇してはならない。〔労働組合法第7条第1項〕

・労働者の性別を理由として解雇してはならない。〔男女雇用機会均等法第6条第4号〕

・女性労働者の結婚、妊娠、出産、産休などを理由として解雇してはならない。〔男女雇用機会均等法第9条第2項、第4項)

・労働者の育児休業や介護休業を理由として解雇してはならない。〔育児・介護休業法第10条、第16条〕

 

<一般的な不当解雇>

労働契約法には、解雇が無効となる一般的な基準が次のように示されています。

「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」〔労働契約法第16条〕

この条文自体は、表現が簡潔で抽象的なため、これだけを読むと解釈の幅が広いものとなります。

しかし、労働契約法は判例法理をまとめたものです。

ですから、実務的には、数多くの判例や裁判例を参照して、具体的な事例に当てはめて、解雇権の濫用となるのか、不当解雇となるのかを判断することになります。

それでも、使用者側が「不当解雇ではない」ことを証明するのは、困難であることが多いのが実態です。

 

<労働者からの主張・請求>

解雇を通告された労働者が「解雇権の濫用であって解雇は無効である」と主張した場合、具体的には、使用者に対して、次のような請求が行われます。

・労働者の権利を有する地位にあることの確認 ― 解雇が無効なので従業員の立場を維持しているということです。

・勤務できなかった期間の賃金(給与・賞与)の支払 ― 使用者側が従業員の労務の提供を拒否していたのだから、働かなくても賃金は支給されなければならないということです。〔民法第536条第2項〕

・慰謝料の支払 ― 無効な解雇の通告によって、会社から追い出されたことによる精神的な苦痛があるわけです。一般には、50万円から100万円程度です。

 

<会社側の対応>

弁護士や社会保険労務士に相談して、不当解雇ではないことの確認ができ、証拠も揃うのであれば、当然ながら、労働者からの主張・請求を受け入れる必要はありません。

ただ、この場合であっても、言いがかり的な訴訟などを避けるために、証拠を示しながら丁寧に説明しておく必要があります。

反対に、解雇権の濫用や不当解雇ではないと言い切れない場合には、和解による金銭解決を目指すべきです。

勤務できなかった期間の賃金や慰謝料の支払は、これ自体が金銭解決です。

問題なのは、解雇を通告された労働者から「元の職場に戻りたい」と要求された場合です。

会社側が潔く非を認め、労働者が元の職場からも暖かく迎えられるのであれば、ベストな解決かもしれません。

しかし、労働者が元の職場に戻ることが、社内に悪影響をもたらすような場合には、「労働者の権利を有する地位にあること」は認めつつ、金銭解決を図ることになります。

 

<解決社労士の視点から>

労働者から不当解雇を主張されると、これに対応する社員の人件費や精神的な負担は大きいものです。

解雇を検討する場合、問題となりにくい自主退職や退職勧奨ではダメなのかを考えるべきでしょう。

また、解雇を通告する場合には、その理由の正当性の存在や、正当性を証明する証拠の存在を確認したうえで行うことが必要です。

小さな会社では、経営者が感情的になってしまい、他の社員が対応に困ってしまうこともあります。

こんな時は「専門家の意見も聞いてみましょう」と提案することをお勧めします。

PAGE TOP