産後1年以内の解雇はむずかしい

2022/02/13|1,662文字

 

男女平等

 

<法律の規定>

女性が仕事と育児を両立できるよう、法律には次の規定があります。

・産前産後休業中とその後30日間は解雇禁止。〔労働基準法第19条第1項〕

・妊娠中と産後1年以内の妊娠・出産・産休取得を理由とした解雇は無効。〔男女雇用機会均等法第9条第4項〕

・妊娠・出産などを理由とする不利益な取扱は禁止。〔男女雇用機会均等法第9条第3項〕

・産前・産後休業、育児休業などの申出や取得を理由とした解雇その他不利益な取扱は禁止。〔育児・介護休業法第10条〕

労働法の代表格である労働基準法の規定だけを見て、「産休終了後30日経過すれば解雇できる」と即断するのは、全くの誤りであることが分かります。

 

<平成26(2014)年10月23日最高裁判決>

妊娠中の軽易業務への転換を「契機として」降格処分を行った場合には、妊娠中の軽易業務への転換を「理由として」降格したと解されるので、男女雇用機会均等法に違反すると判断しました。

そして、違反に当たらない例として、次のものを挙げています。

・降格することなく軽易業務に転換させることに業務上の必要性から支障がある場合であって、その必要性の内容・程度、降格による有利・不利な影響の内容・程度に照らして均等法の趣旨・目的に実質的に反しないと認められる特段の事情が存在するとき

・軽易業務への転換や降格により受ける有利・不利な影響、降格により受ける不利な影響の内容や程度、事業主による説明の内容等の経緯や労働者の意向等に照らして、労働者の自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき

どちらも、レアケースであることは間違いありません。

 

<解釈通達:平成27年1月23日付け雇児発0123第1号>

上記の最高裁判決がきっかけとなり、雇用均等・児童家庭局長の解釈通達が発出されました。

妊娠・出産、育児休業等を「契機として」不利益取扱を行った場合、妊娠・出産、育児休業等を「理由として」不利益取扱を行ったと解されるので、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法に違反するという内容です。

ここで、「契機として」は基本的に時間的に近接しているか否かで判断するものとされました。

また、違反に当たらない例として、次のものが挙げられています。

・業務上の必要性から支障があるため当該不利益取扱いを行わざるを得ない場合において、その業務上の必要性の内容や程度が、法の規定の趣旨に実質的に反しないものと認められるほどに、当該不利益取扱いにより受ける影響の内容や程度を上回ると認められる特段の事情が存在するとき

・契機とした事由又は当該取扱いにより受ける有利な影響が存在し、かつ、当該労働者が当該取扱いに同意している場合において、有利な影響の内容や程度が当該取扱いによる不利な影響の内容や程度を上回り、事業主から適切に説明がなされる等、一般的な労働者であれば同意するような合理的な理由が客観的に存在するとき

これらの例外も、最高裁判決の挙げた例外と軌を一にするものであって、極めて稀なケースを想定しています。

 

<解決社労士の視点から>

冒頭に掲げたとおり、男女雇用機会均等法第9条第4項は、「妊娠中・出産後1年以内の解雇は、事業主が、妊娠等が理由でないことを証明しない限り無効」としています。

訴訟などで争われたケースの具体的な内容を検討してみると、元々問題社員と目されていた社員について、妊娠・出産で本人がいない間に、解雇などの不利益取扱が検討されるという事情が窺われます。

問題社員を日頃から注意・指導し、これに応じない場合には懲戒で対応するなどしていれば、妊娠前に会社の決断を下せたでしょうし、たまたま妊娠・出産の時期に解雇などの不利益取扱をするタイミングとなった場合でも、「妊娠等が理由でないことを証明」しやすくなるでしょう。

同様のことは、問題社員の定年後の再雇用拒否や、問題社員が労災事故で休業した場合にも生じます。

問題社員に対しては、様子見をするのではなく、速やかな対処が必要だということです。

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