問題社員対応の性悪説と性善説

2021/12/01|1,474文字

 

従業員から「解雇してほしい」と言われたら

 

<問題社員かもしれない>

採用面接では人柄の良さを見せ、履歴書や職務経歴書によると経験やスキルは申し分の無いものだった。

そして、試用期間中は期待通りの働きぶりを見せ、皆「良い人材に来てもらえた」と喜んでいた。

ところが、試用期間が終わり本採用されると、様々な理由で遅刻が目立ち、体調不良を理由に早退も多い。

仕事のやり直しが多く、残業も長時間に及んでいる。

上司や同僚には「なかなか希望通りに年次有給休暇が取得できないですね」「◯◯さんは三六協定の限度を超えて残業していますね」など、批判するかのような発言が増えてきた。

 

<性悪説の社長>

うっかり問題社員を採用してしまったようだ。

遅刻や早退が多いけれど、会社に申し出た理由もどうせ嘘だろう。

そもそも履歴書や職務経歴書の内容も怪しいもんだ。

なにしろ人事考課の結果はひどいものだ。

私自らこの問題社員と面談して退職勧奨しよう。

 

こうした考えを持って面談すれば、「遅刻の本当の理由は何だ?」「体調不良で早退することが多いのだから治療に専念してはどうか?」「履歴書や職務経歴書の内容に誤りが無いか、これまでの勤務先に確認してみても良いか?」「この会社は自分に向いていないと思わないのか?」と詰問調になってしまいます。

そして、最後には「この会社を辞めて別の仕事をしてはどうか?」と退職勧奨することになります。

1回の面談で問題社員から退職の申し出があればともかく、面談を繰り返すうちに、内容がエスカレートしていくことが多いものです。

こうなると、思惑通り問題社員から退職願が出てきたとしても、やがて代理人弁護士から内容証明郵便が届いたりします。

退職の強要があったと主張され、未払賃金の支払や慰謝料など多額の金銭を請求されてしまいます。

 

<性善説の社長>

問題社員のレッテルを貼られてしまった者がいるようだ。

遅刻や早退が多いけれど、遠慮して会社に本当の理由を言えないのだろうか。

履歴書や職務経歴書の内容からすると、実力を発揮できていない。

なにしろ人事考課の結果はひどいものだ。

対応について人事部長と協議し、この社員の救済に乗り出そう。

 

こうした社長の方針に基づき、人事部長が本人と面談します。

「家庭の事情などで定時に出勤するのが難しいようなら、時差出勤を認めるので申し出てほしい」

「体調不良による早退が見られるが、通院などで必要があればフレックスタイム制の適用を考えたいので相談してほしい」

「過労を避けるため、勤務が安定するまで残業禁止とします」

「人事考課の結果を踏まえ、各部門の協力を得て、特別研修を実施することになった。これで、あなたは本来の力を発揮できるようになるだろう」

「末永く会社に貢献できるよう、是非とも頑張ってほしい」

会社からこのような対応を取られたら、本当の問題社員は、楽して残業代を稼げない、研修で努力を強いられサボれないなど思惑が外れてしまいます。

自ら会社を去っていくことでしょう。

名ばかり問題社員であれば、社長の期待に応えて戦力化される筈です。

 

<解決社労士の視点から>

性悪説で行けば、短期間で決着を見ることができますし、会社の負担は少なくて済むのかもしれません。

しかし、労働審判や訴訟など深みにはまってしまうリスクも高いのです。

その問題社員からの情報で、会社の評判も落ちることでしょう。

そして、対象者が問題社員ではなかった場合には、貴重な戦力を失うことになるのです。

性善説で行けば、会社の負担は大きいのですがリスクは抑えられます。

どちらの方針で行くか、長期的視点に立って判断していただけたらと思います。

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