最低賃金の引上げ等に伴う不当なしわ寄せ防止

2021/09/25|1,735文字

 

最低賃金違反を主張できない

 

<最低賃金の引上げ>

最低賃金が年々引き上げられ、事業規模に関わらず、賃金上昇圧力が高まっています。

令和2(2020)年10月は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を踏まえて、たとえば東京都では1,013円に据え置かれましたが、令和3(2021)年10月は1,041円へと引上げが再開されています。

コロナ禍が終息しない中での最低賃金引上げは、中小企業を中心に大きな打撃となりかねません。

 

<不当なしわ寄せ防止に向けた普及啓発活動の拡充・強化>

公正取引委員会は、最低賃金の引上げにより、労務費等のコストが大幅に上昇した下請事業者から、単価の引上げを求められたにもかかわらず、親事業者が一方的に従来どおりに単価を据え置いて発注することは、下請法(下請代金支払遅延等防止法)上の「買いたたき」に該当するおそれがあると解釈しています。

この点について公正取引委員会は、新しくQ&Aを作成しウェブサイトへの掲載による周知活動の強化などにより、事業者への周知徹底を図ります。

また、中小企業庁と共同して、毎年11月の「下請取引適正化推進月間」の開催に併せて、事業者団体等との連携拡大を通じて、全国津々浦々に不当なしわ寄せ防止に向けた取組の情報が行きわたるよう周知活動の拡充を行います。

また、下請法のより一層の普及啓発を図る観点から、下請法に関する考え方等を分かりやすく示した、最低賃金引上げによる不当なしわ寄せ防止に関する内容を含む新しい動画を作成し、WEB上で公開を行います。

 

<下請法等の執行強化>

公正取引委員会は、親事業者や親事業者と取引のある下請事業者を対象とした定期調査を実施しています。

令和3(2021)年度の下請事業者向けの定期調査では、最低賃金の引上げ等に伴い特に問題となることが想定される「買いたたき」の指導実績が多い業種や、コロナ禍により特に影響が出ているとされる業種向けの調査拡大、最低賃金の引上げを含む労務費や原材料価格の上昇の影響に関する質問追加等を行い、下請法違反被疑事実についての情報収集に関する取組強化を行います。

また公正取引委員会は、荷主による物流事業者に対する優越的地位の濫用を効果的に規制する観点から「特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法」を指定し、荷主と物流事業者との取引の公正化に向けた調査を行っていますし、優越的地位の濫用規制及び下請法に関する実態調査を行っています。

令和3(2021)年度の荷主と物流事業者との取引に関する書面調査や、その他の優越的地位の濫用規制及び下請法に関する実態調査においても、最低賃金の引上げ等に伴う影響や取引先との価格交渉の状況に関する質問を追加するなど、情報を積極的に収集することとしています。

さらに、令和3(2021)年9月の「価格交渉促進月間」での中小企業庁をはじめとした関係省庁による取組の成果や上記情報収集の成果も踏まえつつ、下請法違反行為等に対して厳正に対処していきます。

親事業者に対して違反行為の改善を求める指導等を行う際に交付する注意喚起文書に、最低賃金の引上げを含む労務費や原材料価格の上昇に関連する注意事項を加え、不当なしわ寄せを行わないよう強く要請します。

 

<相談対応の強化>

最低賃金の引上げ等に伴い、取引先から不当なしわ寄せを受けやすい中小事業者等からの相談を受付ける「不当なしわ寄せに関する下請相談窓口」が設置されます。

また、中小事業者等のためのオンライン相談会が実施されます。

 

<解決社労士の視点から>

「そもそもコロナ禍での最低賃金引上げはおかしい」「企業の生産性向上に歩調を合わせるべき」などの意見も多く聞かれます。

最低賃金は、本来、労働者と家族が健康で文化的な最低限度の生活を営めるようにするための制度でした。

しかし、現在では働き方改革と軌を一にし、少子化対策の意味合いも濃くなっています。

つまり、低賃金の労働者であっても、安心して結婚し子を設けることができるようにするため、賃金水準を上げていくという意図が含まれています。

コロナ禍によって失業しあるいは収入が減少した労働者が急増している現状では、最低賃金の引上げもやむを得ないのかもしれません。

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