懲戒解雇 諭旨解雇 諭旨退職

2021/05/15|1,345文字

 

<懲戒解雇>

民間企業での懲戒は「制裁」を意味します。

労働基準法に「懲戒」という用語はありませんが、「制裁」が「懲戒」の意味で用いられています。〔労働基準法第89条第9号、第91条〕

解雇とは、使用者側から労働契約を解除することをいいます。

ですから懲戒解雇は、制裁としての労働契約解除ということになります。

 

<懲戒解雇の有効要件>

懲戒を有効に行うためには、就業規則に具体的な規定があること、弁明の機会を与えること、懲戒権の濫用とならないこと、労働基準法の制限内であることなど、多くの条件をクリアする必要があります。

解雇を有効に行うためには、解雇権の濫用とならないこと、労働基準法等が定める禁止規定に触れないことが必要です。

ですから、懲戒解雇を有効に行うには両方の要件を満たす必要があり、かなりバードルが高いことになります。

 

<懲戒解雇の効果>

懲戒解雇の場合には、雇用保険の失業手当(基本手当)について、7日間の待期期間に加えて3か月間の給付制限が設けられていますので、受給開始が遅れることになります。

また、所轄の労働基準監督署長の除外認定を受ければ、解雇予告手当の支払が不要です。

さらに、就業規則に「懲戒解雇の場合には退職金を不支給または減額する」などの規定があれば、退職金が全額は支払われないことになります。

もっとも裁判になれば、懲戒解雇の理由に鑑み、退職金を全く支給しないことが不合理であると判断されることは多いものです。

 

<諭旨解雇>

諭旨とは、趣旨や理由を諭し告げることをいいます。

ですから諭旨解雇は、使用者が労働者を諭し、趣旨や理由を告げて退職を促すことになります。

しかし諭旨解雇は法令に規定がありませんので、その内容も各企業の就業規則等によって異なっています。

多くの場合には、本来であれば懲戒解雇となるべきところ、本人に言って聞かせて反省を示していれば、自主的に退職願を提出してもらうことで、懲戒解雇扱いにはしないという内容です。

ほとんどの場合、自己都合退職となりますから、雇用保険の失業手当(基本手当)について、7日間の待期期間に加えて3か月間の給付制限が設けられていますので、受給開始が遅れることになります。

この場合、解雇ではありませんから解雇予告手当は支払われない一方で、退職金の減額は行われないのが一般です。

 

<諭旨解雇特有の問題>

「本来は懲戒解雇とすべきところを懲戒解雇扱いにはしない」というのが諭旨解雇ですから、そもそも「本来は懲戒解雇とすべきではなかった」ならば、前提が崩れてしまいます。

このことから、諭旨解雇を承諾して退職した労働者が、弁護士に相談し諭旨解雇を不服として会社を訴えるケースがあります。

会社としては、懲戒解雇の条件と手続をすべてクリアしたうえで、諭旨解雇に踏み切らなければリスクを負うことになります。

 

<諭旨退職>

諭旨退職も法律用語ではありませんので、各企業によってその意味は異なってきます。

諭旨解雇の意味で、諭旨退職という言葉が用いられている場合も多くあります。

また、退職勧奨の意味で用いられている場合もあります。

「会社や他の従業員に迷惑をかけてしまったし、あなたは信用を失ってしまったので、責任をとって退職しませんか」と話を持ちかけることになります。

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