2021年 11月

2021/11/30|1,751文字

 

<再雇用後の賃金>

会社と労働者とで定年後も働き続けることの合意がなされる場合に、労働条件については、どうしても賃金ばかりが重視されがちです。

再雇用の実績が多い会社では、定年前の賃金のおよそ何パーセントという相場の形成があるでしょうから、賃金についての合意の形成は比較的容易かもしれません。

年金については、性別と生年月日によって支給開始の時期が異なりますし、60代前半と65歳以降とでは支給額が大きく異なります。

また、配偶者の生年月日によって、加給年金額や振替加算についても違いが出てきます。

これらを踏まえて、期間ごとの賃金変動まで合意しておくこともあります。

 

<年次有給休暇>

定年前は、毎年20日の年次有給休暇が付与される一方で、2年前に付与された年次有給休暇は時効消滅するという実態があると思われます。

しかしこれは、週5日勤務を前提としているわけです。

定年後の再雇用で、所定労働日数や所定労働時間が変われば、年次有給休暇の付与日数は変わるかもしれません。

変わるのであれば、これについても再雇用対象者に確認しておく必要があります。

 

労働基準法で、年次有給休暇の付与日数は次の【図表】のとおりです。週所定労働日数が4日で、週所定労働時間が30時間以上の場合には、週所定労働日数が5日の欄が適用されます。

 

【図表】

週所定

労働日数

勤 続 期 間

6月 1年6月 2年6月 3年6月 4年6月 5年6月 6年6月以上

5日

10日

11日

12日

14日

16日

18日

20日

4日

7日

8日

9日

10日

12日

13日

15日

3日

5日

6日

6日

8日

9日

10日

11日

2日

3日

4日

4日

5日

6日

6日

7日

1日

1日

2日

2日

2日

3日

3日

3日

 

これは法定の日数ですから、就業規則にこれと異なる規定があれば、労働者に有利である限りそれに従います。

「勤続期間」は定年前と定年後を通算します。定年後の再雇用だからといって、定年前の年次有給休暇が自動的に消滅するわけではありません。

 

さて、平成31(2019)年4月1日からは、労働者からの申し出が無くても、使用者が積極的に年次有給休暇を取得させる義務を負うことになりました。

これは労働基準法の改正によるものです。

年次有給休暇の付与日数が10日以上の労働者に対し、基準日から1年以内の期間に、年次有給休暇のうち5日については、その取得を確実にしなければなりません。

「年次有給休暇の付与日数が10日以上の労働者」という限定がありますので、この部分についても再雇用対象者にあらかじめ説明が必要でしょう。

 

<社会保険>

社会保険(健康保険・厚生年金保険)への加入は、1週間の所定労働時間と1か月の所定労働日数が常時雇用者(正社員など)の4分の3以上というのが原則の基準です。

ただし、大企業などで特定適用事業所となっている場合には、1週間の所定労働時間が20時間以上で加入となります。

 

この基準により社会保険に加入しない場合には、扶養家族(被扶養者)を含めて国民健康保険の保険料を支払うことになりますし、扶養している配偶者は国民年金保険料を支払うことになります。

定年前の健康保険であれば、扶養家族の分の保険料は発生しなかったのに、国民健康保険に切り替わると、扶養家族扱いにはならず保険料が高くなることも多いでしょう。

また国民年金に切り替わると、扶養している配偶者についても「第三号被保険者」ではなくなりますので国民年金保険料がかかることになります。

 

社会保険料は高額ですから、社会保険の加入基準との関係で、1週間の所定労働時間と1か月の所定労働日数を決める必要があります。

 

<雇用保険>

雇用保険の加入基準は、会社の規模にかかわらず1週間の所定労働時間が20時間以上となっています。

20時間を下回ると、安定した雇用関係に無いということで、雇用保険では「離職」という扱いになります。

なお、満64歳以上の労働者の雇用保険料についての免除制度は令和2(2020)年4月1日をもって廃止されました。

 

人手不足を背景として、定年後の再雇用が盛んになっています。これに伴うトラブルも増加しています。会社に長年貢献してきた従業員とのトラブルは、会社にとって大きな打撃となってしまいます。十分な話し合いをもって労働条件を決定するようお願いいたします。

<みなし規定の効果>

法令の中に「みなす」「推定する」という言葉が使われています。

日常会話の中では厳密に区別されませんが、条文の解釈としては大きな違いが出てきます。

「みなす」という表現が使われている規定は、「みなし規定」と呼ばれます。

ある事実があった場合に、一定の法的効果を認めるという規定です。

その事実さえあれば、自動的に法的効果が発生します。

「例外的な事情があって法的効果を否定したい」と考えて証拠を集めても、法的効果を否定することができません。

「推定する」という表現が使われている「推定規定」であれば、実際はその推定が不合理であることを証明して、法的効果の発生を阻止することができるのですが、「みなし規定」では覆すことができないのです。

 

<労働法とみなし規定>

労働法では、主に労働者を保護するために「みなし規定」が置かれています。

たとえば、労働基準法第38条第2項には次の規定があります。

 

坑内労働については、労働者が坑口に入つた時刻から坑口を出た時刻までの時間を、休憩時間を含め労働時間とみなす。

 

つまり、賃金を計算するときには、労働者が坑口に入った時刻から坑口を出た時刻までのすべての時間を労働時間として計算しなければなりません。

たとえ、1日2時間の休憩時間を設けていたとしても、休憩が無かったものとして計算します。

日当を設定する場合には、1時間あたりの最低賃金に、このルールで計算した労働時間をかけ合わせて、最低賃金法違反にならないかチェックする必要があります。

 

また、年次有給休暇の付与基準である出勤率について、労働基準法第39条第8項は次の規定を置いています。

 

労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業した期間及び育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律第二条第一号に規定する育児休業又は同条第二号に規定する介護休業をした期間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業した期間は、第一項及び第二項の規定の適用については、これを出勤したものとみなす。

 

つまり、法律によって休業することが認められた日については、すべて出勤したものとみなして出勤率を計算することになります。

 

労働契約法にも、有期労働契約の無期転換(第18条第1項)と更新(第19条)に「みなす」という規定があります。

 

「常識的に見て」「実際には」などの理由で法的効果を否定できないところに、みなし規定の怖さがあります。

2021/11/28|2,024文字

 

<民法の規定>

正社員のように、期間を定めずに雇用した従業員については、「使用者がいつでも解雇できる」と民法が規定しています。

 

【民法第627条:期間の定めのない雇用の解約の申入れ】

当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。

2 期間によって報酬を定めた場合には、使用者からの解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない。

 

一方で、パート社員など、期間を定めて雇用した従業員については、「やむを得ない事由があれば期間の途中でも解雇できる」と規定しています。

 

【民法第628条:やむを得ない事由による雇用の解除】

当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。

 

そして、雇用期間の満了とともに雇用契約を終了させることについては、特別な制約がありません。

ただ、雇用の期間が満了した後、従業員が引き続きその労働に従事する場合に、使用者がこれを知りながら異議を述べないときは、期間満了前の雇用と同一の条件で更に雇用をしたものと推定されます。〔民法第629条第1項〕

 

<労働基準法の規定>

民法の特別法である労働基準法には、解雇予告の規定があり、使用者が従業員を解雇しようとする場合は、遅くとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならないと規定しています。〔労働基準法第20条第1項本文〕

そして、解雇の禁止についていくつか規定しています。〔労働基準法第19条など〕

これだけであれば、解雇禁止にあたるケースを除き、解雇が困難である理由は見当たりません。

 

<司法判断による修正>

かつての日本企業では、年功序列の終身雇用制が採られていました。

年功序列であれば、若い時の給与・賞与は働きぶりに見合わないほど低く抑えられています。

それが、勤続年数が長くなるとともに、働きぶりに見合う収入となり、定年年齢が近づくと業務内容の割に高い収入となります。

つまり、若い頃のマイナスを、中高年になってから取り戻すという制度です。

退職金制度も年功序列なので、定年年齢まで勤め上げずに退職すると、給与・賞与だけでなく退職金の点でも不利になってしまいます。

そもそも、終身雇用制なのですから、企業は簡単には解雇しないというのが大前提となっています。

こうした企業で、若いうちの解雇は、人生設計を狂わせる大打撃となるわけですから簡単には許されません。

つまり、年功序列の終身雇用制の下での解雇は、余程の理由が無い限り、権利の濫用となって許されないというのが裁判所の判断として定着しました。〔日本国憲法第12条、民法第1条第3項〕

 

<労働契約法の成立>

労働契約法は、労働契約に関する基本的な事項を定める法律です(平成20(2008)年3月1日施行)。

解雇など個別労働紛争での予測可能性を高めるためにできました。

個別労働紛争というのは、労働組合が絡まない「会社と労働者個人との間の労働紛争」です。

労働基準法をはじめとする数多くの労働法は、その内容が抽象的なこともあり、労働紛争が裁判になったらどんな判決が出るのか、条文を読んでもよくわからないケースが増えてしまいました。

そこで、数多くの裁判例にあらわれた理論を、条文の形にまとめたのが労働契約法です。

労働契約法は、解雇について次のように規定しています。

 

【労働契約法第16条:解雇】

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

 

この条文の解釈は、堂々巡りになりますが、過去の裁判例にあらわれた理論を参考に行われることになります。

したがって、年功序列の終身雇用制を前提とした理論も、かなり含まれてしまいます。

こうして、「解雇はむずかしい」と言われるようになっています。

 

<解決社労士の視点から>

年功序列や終身雇用制はすでに崩壊しているとも言われています。

今後、解雇の有効性が争われる裁判の中で、企業側が「自社は終身雇用を前提としない、年功序列ではない給与体系、退職金制度をとっているので、今回の解雇は客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当である」という主張を行っていけば、判例理論も緩やかに変更されて、「日本は解雇がむずかしい」というのも解消されていくのではないでしょうか。

労働市場や企業の実情の変化に合わせて解釈を変更できるように、労働契約法第16条の規定がやや抽象的な表現となったのだと考えることもできるでしょう。

2021/11/27|1,566文字

 

残業の削減方法https://youtu.be/4zoPGEeciCY

未払残業代の経済的リスクhttps://youtu.be/lf4nqYYECFs

 

<定額(固定)残業代>

定額(固定)残業代は、1か月の残業代を定額で支給するものです。

基本給に含めて支給する方式と、基本給とは別に定額残業手当として支給する方式があります。

残業時間を減らしても給与が減らないので、長時間労働の抑制になります。

会社にとっても、人件費が安定するので人件費の予算や計画が立てやすくなります。

 

<適法性>

かつては違法な運用が横行していたために、定額(固定)残業代そのものが悪であるかのように言われていました。

しかし、適法に運用する会社が増えてきており、必ずしも悪いものとは見られなくなりました。

ハローワークの求人票でも、正しく内容を明示すれば問題無いものとして扱われることが多くなっています。

適法な導入と運用の概要は次のとおりです。

まず、残業について1か月の基準時間を定めて、これに応じた定額の残業代を設定します。

基準時間を下回る時間しか残業が発生しない月も、定額の残業代は減額せずに支給します。

基準時間を上回る時間の残業が発生した月は、定額の残業代を上回る部分の残業代を給与に加えて支給します。

賞与でまとめて支給することはできません。

深夜労働や休日労働の割増賃金は、別計算で支給する方式をお勧めします。

たしかに、深夜労働や休日労働の分も定額(固定)にすることは、理論的には可能です。

しかし、計算や運用が難しくなりますし、人件費が割高になるのでお勧めできません。

多くの労働基準監督署でも、このように指導しています。

 

<具体的な計算方法>

定額(固定)残業代の設定に必要な計算はやや複雑ですから、Excelなど表計算ソフトを活用した方が良いと思います。

ここでは、1日8時間、1週40時間、1か月の勤務日数が22日で月給が設定されている場合を例にとります。

残業の基準時間が30時間で、基本給+定額残業手当=25万円にしたいときは、

定額残業手当=基本給÷(8時間×22日)×1.25×30時間なので、

25万円-基本給=基本給×37.5÷176

基本給×(37.5÷176+1)=25万円

基本給=25万円÷(37.5÷176+1)

これを計算すると、206,089円となります。

定額残業手当は、25万円-206,089円=43,911円です。

206,089円の基本給の場合、1か月の勤務時間が8時間×22日=176時間なら、

30時間分の残業手当は、(206,089円÷176時間)×30時間×1.25=43,911円で計算の正しいことが確認できます。

※ただし実際の給与計算では、円未満の端数処理のルールがありますから、上記のとおりにいかない部分もあります。

 

<その他の注意点>

このとき注意したいのは、最低賃金です。

計算結果の基本給が、最低賃金×176時間を下回ると最低賃金法違反となります。

上記の例では、206,089円÷176時間=1,170円ですから、1時間あたりの賃金が1,170円となり、現在どの都道府県でも最低賃金を上回ります。

しかし、基本給+定額残業手当=20万円の場合を想定すると、1時間あたりの賃金が936円となり、東京都や神奈川県などでは最低賃金を下回ってしまいます。

これでは最低賃金法違反となってしまいます。

なお、基本給に定額残業代を含めたいときは、上記の基本給+定額残業手当を基本給として設定すればOKです。

この場合でも、きちんと内訳を表示する必要がありますから、本来の基本給分がいくらで、定額の残業代が何時間分でいくらなのかを対象者に明示しましょう。

さらに、残業時間が基準時間を超える場合に、残業手当を別途支給するときの基準額も示す必要があります。

何も示さないと、定額残業代を含んだ基本給をベースに残業手当を計算することになってしまいます。

これでは、想定外に人件費が膨らんでしまうので注意しましょう。

2021/11/26|973文字

 

採用面接で聞けないことhttps://youtu.be/RMwaAg-3wYY

採用面接で病気のことを聞くhttps://youtu.be/Z46t58AAV_U

 

<公正な採用選考の基本>

採用選考に当たっては、応募者の基本的人権を尊重すること、応募者の適性・能力のみを基準として行うことが基本です。

この基本から外れた採用面接を行ってしまうと、応募者からの口コミで会社の評判が落ちてしまうこともあります。

しかし、質問したわけではないのに、応募者の方から自発的に話したことを聞き取るのは問題ありません。

 

<ハラスメント発言は厳禁>

パワハラ、セクハラ、マタハラなどの発言は、確実に避けなければなりません。

もちろん、まだ労使関係にない応募者と会社との間で、厳密な意味でのハラスメントは生じないでしょう。

しかし、応募者に対してハラスメント発言をしてしまえば、セクハラなどが横行する会社であるという印象を与えることになります。

それでも、面接担当者が自分の子供のことについて世間話をしたのに対して、応募者が興味を示して自分の子供について話したのなら、自発的に話したものとして聞き取っても良いでしょう。

 

<思想信条にかかわる事項>

宗教、支持政党、人生観、生活信条、尊敬する人物、購読新聞・雑誌・愛読書などに関することは、面接で聞いてはいけません。

しかし、「何か趣味はお持ちでしょうか」と世間話をするのは問題ありません。

「読書です」という回答に対して、「どんな本を読みますか?」と尋ねるのは不適切です。

それでも、「私はマンガばかり読んでいますよ」という世間話に対して、「夏目漱石の作品が好きです」という回答を得るのは問題ありません。

 

<応募者に責任のない事項>

応募者の努力で改善できないことを尋ねるのは人権侵害にあたります。

たとえば、本籍・出生地に関すること、家族に関すること(職業、続柄、健康、地位、学歴、収入、資産など)、住宅状況に関すること(間取り、部屋数、住宅の種類、近郊の施設など)、生活環境・家庭環境などに関することも、面接で聞いてはいけません。

採用が決まってから、社会保険の手続などに必要な範囲内で申告させるようにしましょう。

それでも、面接担当者自身のことや他の従業員のことについて世間話をすると、質問したわけではないのに応募者が自分自身の話をしてくることがあります。

採用選考に当たっては、応募者の適性・能力のみを基準として行うことが基本ですが、その参考資料として応募者の自発的な発言を活用することも可能でしょう。

2021/11/25|1,389文字

 

<骨太方針2021>

令和3(2021)年6月18日、「経済財政運営と改革の基本方針2021日本の未来を拓く4つの原動力~グリーン、デジタル、活力ある地方創り、少子化対策~」(骨太方針2021)が経済財政諮問会議での答申を経て、閣議決定されました。

この中で、選択的週休3日制について、育児・介護・ボランティアでの活用、地方兼業での活用などが考えられることから、好事例の収集・提供等により企業における導入を促し、普及を図るとしています(23ページ(5)多様な働き方の実現に向けた働き方改革の実践、リカレント教育の充実)。

このことから、政府が選択的週休3日制を推進していくことは間違いありません。

 

<選択的週休3日制>

選択的週休3日制は、希望する従業員のみ週休3日制(週4日勤務)とすることができる制度です。

全社的に週休3日制とするものではありません。

また非正規社員は、元々勤務日数が少ない場合が多いので、基本的には正社員を対象としたものとなります。

 

<制度設計>

一口に選択的週休3日制と言っても、具体的には様々なタイプの制度が考えられます。

・対象者について、全員とする、特定の部署に限定する、上位役職者を対象外とするなど

・目的について、育児・介護・ボランティア・兼業などに限定する、限定しない

・期間について、期間限定とする、無期限に行う

・3日目の所定休日について、全員一律とする、会社が指定する、対象者の希望によるなど

・1日の所定労働時間について、8時間勤務とする、10時間勤務(週40時間)とするなど

・給与について、減額しない、8割程度に減額するなど

他にも、週単位・月単位で週休3日制を選択できるか、週休2日制に戻れるかなど、制度の導入にあたっては数多くのことを検討する必要があります。

 

<導入目的>

骨太方針2021でこの制度について述べられているのが、「(5)多様な働き方の実現に向けた働き方改革の実践、リカレント教育の充実」という項の中であることから、制度の導入目的が働き方改革の推進であることは明らかです。

つまり、選択的週休3日制を多様な働き方の実現ととらえており、ワーク・ライフバランスを意識するものであると考えられます。

この趣旨からすれば、労働時間が減少しても給与が減額されない制度が理に適っていることになります。

一方で、政府の思惑とは別にコロナ禍の影響もあって、人件費削減を目的として選択的週休3日制を導入する企業もあるでしょう。

この趣旨からすれば、給与が減額される代わりに、労働時間が減少する制度とすることになります。

 

<育児を理由に利用する場合>

育児を理由に週休3日制を希望する従業員の中には、子供を保育園に預けている人もいます。

親が週休3日制となると、保育に欠ける度合いが低減するため、子供を保育園に預ける場合の優先順位が下がり、預かってもらえなくなる可能性があります。

認可保育園では、この傾向が強いため念の為確認が必要でしょう。

 

<解決社労士の視点から>

選択的週休3日制を導入しても、希望者が少なければ所期の目的が果たされません。

反対に、希望者が多すぎても業務の正常な運営が困難となってしまう可能性があります。

制度の導入にあたっては、案の段階で、アンケートや聞取り調査を行い、従業員のニーズに合っているか、希望者が何人程度出るかを探っておいたほうが安全です。

 

2021/11/24|902文字

 

整理解雇の有効要件https://youtu.be/CazrPD2pm8Q

 

<整理解雇とは>

整理解雇とは、会社の事業継続が困難な場合に、人員整理のため会社側の都合により労働契約を解除することです。

法律上は普通解雇の一種ですが、労働慣例により他の普通解雇と区別するため整理解雇という用語が使われています。

 

<法律上の制限>

「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」という規定があります。〔労働契約法第16条〕

しかし、これでは内容が抽象的すぎて、具体的な場合にその解雇が有効なのか無効なのか判断に困ります。

会社が解雇を通告し、その通告を受け入れた退職者が、退職後数か月経過してから専門家に相談したところ「不当解雇であり解雇は無効だった可能性がある」と言われて、会社に異議を申し立てるということもあります。

退職の時点では、「早く転職先を見つけよう」など前向きな気持ちになっていたところ、なかなか仕事が見つからず経済的な不安も大きくなって、「あの解雇はおかしいのではないか」という疑問も膨らむようです。

 

<整理解雇の有効要件>

整理解雇の具体的な有効要件は、次の4つの要素が最高裁判決の中で示されています。

4つのうち1つでも要件を欠いていたら、解雇が無効になるということではなく総合的に判断されます。

まず、経営上の人員削減の必要性です。会社の財政状況に問題を抱えていて、新規採用などできない状態であることです。

これは法的な判断というよりは、経営上の判断ですから、一応の必要性が認められればクリアできる基準です。

次に、解雇回避努力の履行です。配置転換や希望退職者の募集などの実施です。

これはかなり大きなウエイトを占めています。解雇に踏み切らなくても事業が継続できるのであれば、解雇は回避しなければなりません。

さらに、解雇対象者の人選の合理性です。差別的な人選は許されません。

ここは、人選基準を具体的に示して労働者全体に説明しなければならないところです。

最後に、手続の相当性です。事前の説明や労働者側との協議など、誠実に行うことが求められます。

説明や協議は、回数が多く期間が長ければ誠実さも認められやすくなります。

2021/11/23|748文字

 

被災者が労災保険の手続に協力しないhttps://youtu.be/Hq1ulb5Kk0s

 

<従業員が拒むケース>

労災保険の手続をすれば、被災者は無料で治療を受けたり、賃金の一部が補償されたりします。

ところが、「自分の不注意でケガをしたのだから会社に迷惑をかけたくない」あるいは「面倒くさい」などの理由で、手続に必要な書類の作成に協力しない従業員もいます。

 

<被災者の権利ではあるものの>

労災保険による補償を受けるのは被災した従業員の権利です。

権利というのは、原則として行使するかしないかが権利者の選択に任されています。

この原則からすると、被災者が権利を放棄している以上、何ら問題は無いようにも思われます。

しかし、使用者は労働者を労務に従事させることにより事業を営んでいるので、労働者の業務上のケガや病気については、本来、使用者が補償する責任を負っています。〔労働基準法第75条以降〕

ただ、労災保険による補償がある場合には、その範囲で責任が免除されます。〔労働基準法第84条第1項〕

ですから、被災者本人か労災手続を拒んでいる場合に手続を進めなければ、使用者には労働基準法上の補償責任が残ってしまいます。

ただし、これは業務上のケガや病気についての補償の場合であって、通勤災害については労働基準法上も使用者が責任を負いませんので当てはまりません。

 

<被災者を説得するために>

まず、手続を速やかに進めないと、労災隠しを疑われるなど会社が迷惑するという説明が必要でしょう。

また、労災手続をすることによって治療費がかからなくなること、手続をしない場合、健康保険が適用されないので、3割ではなく治療費の全額が自己負担となること、労災なのに健康保険証を呈示して治療を受ければ一種の保険詐欺になることも説明しましょう。

さらに休業補償がある場合には、1日あたりの具体的な金額を示して説明することも有効です。

2021/11/22|1,484文字

 

<こだわりの原因>

傷病手当金を受給できないケースであるにもかかわらず、従業員が受給を希望し、会社に協力を求めてくることがあります。

会社から「今回のあなたの場合には、傷病手当金を受給できないので、会社は手続に協力することができません」と伝えても納得せず、受給にこだわることがあります。

これには、次のような理由が考えられます。

・「傷病手当金支給申請書」の用紙を、ネットでダウンロードするなどして従業員自身で準備し、診察した医師に「療養担当者記入用」の「療養担当者が意見を記入するところ」を記入してもらった。記入してもらうのに文書料を負担しているので、これが無駄になるのは嫌だ。また、医師が記入してくれたのだから、傷病手当金をもらえるはずだと思う。

・健保協会に問い合わせたり、ネットで調べたりして、休業1日につきいくらの傷病手当金を受給できるかを確認し、自分の受給額を計算済である。

・会社が協力してくれないことについて、健保協会などの保険者や社会保険労務士などに相談したところ、「会社には協力する義務がある」という回答だった。

・休業中は無給なので、社会保険料や住民税を支払うために、なるべく早く傷病手当金を受給したいという焦りがある。

 

<傷病手当金を受給できない原因>

傷病手当金の受給には条件があるのですが、これを確認せず、条件を満たしていないのに手続を進めようとしていることがあります。

これには、次のような理由が考えられます。

・3日を超える休業をしていない。特に、医師が10日間の労務不能を証明したのに対し、本人が無理をして3日間しか仕事を休んでいないようなケースでは、実態としての3日間の休業が優先されるので受給できないことになる。

・私傷病ではなく、業務災害や通勤災害による傷病なので、健康保険の適用対象外である。

・医師の診断を受けずに自己判断で休業し、市販薬を使用しながら自宅療養し、回復とともに出勤を再開した。この場合、医師による労務不能の認定が受けられないので、傷病手当金の手続ができない。

 

<説明の失敗>

事実は「出勤のため自転車に乗っていたところ、雨上がりのマンホールの蓋で滑って転び足を骨折した」のだとしても、けがをした従業員が医師に対して「自転車に乗っていてころんだ」とだけ話せば、医師は私傷病だと判断するかもしれません。

この場合、「傷病手当金支給申請書」に記入するのは自然な流れです。

傷病手当金の受給を希望する従業員は、直属上司に相談するかもしれません。

その上司に知識が不足していれば、あやふやな説明に終始してしまうことになります。

この場合には、上司が詳しい人に相談せず自己流の説明をして失敗しているわけです。

また、健保組合や社会保険労務士に相談した場合でも、会社が手続に協力しない不満を述べるだけで、傷病の原因についての具体的な説明が無ければ、誤った回答が出される危険があります。

 

<会社からの正しい説明>

会社が従業員から傷病手当金の相談を受けたなら、社内外の専門家がご本人に聞き取りを行い、適確な説明をする必要があります。

特に、ご本人の勘違いで傷病手当金の手続を進めるつもりになっていた場合には、より一層丁寧な説明が必要となります。

 

<解決社労士の視点から>

従業員の勘違いに起因するものであっても、無駄な出費が発生した場合には、会社に対する不信感が発生することもあります。

健康保険の傷病手当金や高額療養費、労災保険の給付、育児・介護関連については、一定の頻度で発生しますから、社内での相談窓口を明確にしておくこと、最低限の知識は社内で共有することが必要です。

2021/11/21|946文字

 

<ダイバーシティ(Diversity)>

ダイバーシティは「人々の間の違い」「多様性」というのが本来の意味です。

日経連の定義は「異なる属性(性別、年齢、国籍など)や従来から企業内や日本社会において主流をなしてきたものと異なる発想や価値を認め、それらを活かすことで、ビジネス環境の変化に迅速かつ柔軟に対応し利益の拡大につなげようとする経営戦略。また、そのために、異なる属性、異なる発想や価値の活用をはかる人事システムの構築に向けて連続的かつ積極的に企業が取り組むこと」となっています。

私の理解では「色々な違いのある人々であっても、同じ職場に平等に受け入れ、一緒に働くからには組織の一員として平等に扱う」ということを、ダイバーシティと言っていると感じます。

平等の原理のあらわれであるという理解です。

 

<インクルージョン(Inclusion)>

インクルージョンは「包括」「包含」「一体性」というのが本来の意味です。

「組織内の誰にでもビジネスの成功に参画・貢献する機会があり、それぞれに特有の経験やスキル、考え方が認められ、活用されていること」などと説明されています。

インクルージョンは、ダイバーシティをより発展させた新しい人材開発のあり方であるという説明も良く目にします。

私の理解では「色々な違いのある人々を、同じ職場に平等に受け入れた後は、一緒に働くのであっても、一人ひとりの個性が活かされ独自能力を最大限に発揮できるよう、個性に応じて公平に扱う」ということを、インクルージョンと言っていると感じます。

公平の原理のあらわれであるという理解です。

 

<平等と公平>

平等とは、人々の共通する属性に着目して同じ扱いをすることにより、妥当な結論を導く考え方です。

公平とは、人々の異なった属性に着目して違いに応じたバランスの取れた扱いをすることにより、妥当な結論を導く考え方です。

平等な採用をして、公平な処遇をすることによって、一人ひとりが能力を最大限に発揮し企業と共に成長するのは、すばらしいことだと思います。

平等と公平は、共通する属性に着目するのか、異なる属性に着目するのかという点で、大きな違いがあります。

両者の調和を目指すのが公正です。

採用前から退職後まで、人事の仕事は公正であることが求められます。

2021/11/20|830文字

 

<勤続期間が短い場合>

最初から半年以内の契約期間で働く約束であったり、長く勤めてもらう予定だったとしても入社から半年以内に退職すると、法定の年次有給休暇は取得できません。〔労働基準法第39条第1項〕

ただし、雇用期間を半年にして契約した場合でも、契約が更新されて半年を超えて働き続ければ、原則として、法定の年次有給休暇が取得できるようになります。

さらに、会社の就業規則で入社と共に年次有給休暇を付与するような規定を置いていれば、半年を待たずに年次有給休暇を取得できます。

 

<休みがちだった場合>

就業規則や雇用契約で決まっている全労働日の8割以上出勤しなければ、法定の年次有給休暇は付与されません。〔同上〕

ただし、業務上の負傷・疾病等により療養のため休業した日、産前産後の女性が労働基準法第65条の規定により休業した日、育児・介護休業法に基づき育児休業または介護休業した日、年次有給休暇を取得した日については、出勤したものとして計算します。

 

<出勤回数が少ない場合>

隔週1日の出勤というように、所定労働日数が年48日未満の雇用契約で働く場合にも、年次有給休暇は付与されません。〔労働基準法第39条第3項、厚生労働省令〕

あくまでも、所定労働日数が基準です。

1日の勤務時間が短くても、所定労働日数が多ければ年次有給休暇が付与されます。

 

<就業規則による修正>

会社の就業規則に、労働者に有利な規定があれば法律に優先して適用されます。

反対に、年次有給休暇についての規定が無かったり、法定の基準を下回る規定があったとしても、最低限、法定の年次有給休暇が付与されます。

 

<違法な運用>

勤続期間は、試用期間を設けた場合であっても、試用期間の初日から計算しなければなりません。

本採用になってから半年後に、年次有給休暇を付与するのでは違法です。

また、年次有給休暇を減らしたり付与しなかったりする懲戒処分は無効ですし、違法でもありますから、損害賠償と罰則の適用の両方が問題となります。

2021/11/19|990文字

 

<使い勝手の良さが向上>

令和3(2021)年9月21日からハローワークインターネットサービスの機能がさらに充実し、オンラインで受けられるサービスが広がっています。

令和2(2020)年1月6日には、新システムへの切り替えで、ハローワーク窓口、求職者、求人企業での混乱が見られました。

このため、ハローワークインターネットサービスがやや敬遠されていましたが、今回の機能充実はかなり使い勝手の良さをもたらしています。

 

<求職者向けの機能充実>

機能強化のポイントは次の3点です。

1.ハローワークに行かなくても、オンライン上で「求職者マイページ」を開設できるようになった。

2.ハローワーク利用者は、オンラインで職業紹介を受ける「オンラインハローワーク紹介」を利用できるようになった。

3.ハローワークインターネットサービスで探した求人に直接応募する「オンライン自主応募」ができるようになった。

ハローワークを利用して「求職者マイページ」を開設している人は、ハローワークからオンラインでお勧め求人の職業紹介を受けることができるようになりました。

普段ハローワークを利用していない人も、ハローワークインターネットサービスを利用して、自分自身で探して気に入った求人に直接応募することができるようになりました。

 

<求人企業向けの機能充実>

機能強化のポイントは次の3点です。

1.求人者マイページを通じて、オンラインで職業紹介を受ける「オンラインハローワーク紹介」が利用できるようになった。  

2.求職者がオンラインで応募した場合、応募書類の管理や採否入力が効率的になった。      

3.求職者からの応募を直接受けることができるようになった(オンライン自主応募)。

 

<企業がオンライン自主応募を受ける場合の注意点>

「オンライン自主応募」とは、ハローワークインターネットサービスに掲載された求人に、求職者がハローワークを介さずにマイページを通じて直接応募することをいいます。

ハローワークインターネットサービスのみの利用者も応募できるため、応募者層が広がるものと考えられます。

ただし、オンライン自主応募はハローワークの職業紹介ではないため、ハローワーク等の職業紹介を要件とする助成金の対象となりません。

オンライン自主応募を受け付ける場合は、令和3(2021)年9月21日以降に求人者マイページから変更が必要です。

2021/11/18|739文字

 

<スタートは法定手続から>

フレックスタイム制は、労働基準法の規定によって認められています。

この規定に定められた手続を省略して、形ばかりフレックスタイム制を導入しても、すべては違法であり無効となります。

そのポイントは次のとおりです。

・業務開始時刻と業務終了時刻は労働者が決めることにして、これを就業規則などに定めます。

・一定の事項について、会社側と労働者側とで労使協定を交わし、協定書を保管します。これを労働基準監督署長に提出する必要はありません。

 

<無効だとどうなるか>

上記の法定手続をせずに、残業時間を8時間分貯めると1日休むことができるというようなインチキな運用をしても無効です。

無効ということは、フレックスタイム制が無いものとして賃金の計算をしなければなりません。

間違って、フレックスタイム制のルールで賃金を計算して支払ってしまった場合には、不足する差額分を追加で支払わなければなりません。

たとえば、法定労働時間を超える8時間の残業に対しては、10時間分の賃金支払が必要です。

( 8時間 × 1.25 = 10時間 )

しかも、消滅時効の関係で最大3年分遡って精算することになります。

 

<違法だとどうなるか>

正しい手続でフレックスタイム制を導入した場合を含め、次のような違法な運用が見られます。

・残業手当を支払わない。

・残業時間が発生する月は年次有給休暇を取得させない。

・残業時間を翌月の労働時間に繰り越す。

・業務開始時刻や業務終了時刻を上司など使用者が指定してしまう。

・コアタイムではない時間帯に会議を設定し参加を義務づける。

・18歳未満のアルバイトにフレックスタイム制を適用してしまう。

違法だと、労働基準法の罰則に触れるため罰せられることがあります。

2021/11/17|1,141文字

 

<延滞金>

労働保険料を「納期限」(督促による指定期限)までに完納しないと、保険料とは別に「延滞金」を納付しなければなりません。

 

【労働保険の保険料の徴収等に関する法律】第28条(延滞金)

政府は、前条第一項の規定により労働保険料の納付を督促したときは、労働保険料の額に、納期限の翌日からその完納又は財産差押えの日の前日までの期間の日数に応じ、年十四・六パーセント(当該納期限の翌日から二月を経過する日までの期間については、年七・三パーセント)の割合を乗じて計算した延滞金を徴収する。ただし、労働保険料の額が千円未満であるときは、延滞金を徴収しない。

2 前項の場合において、労働保険料の額の一部につき納付があつたときは、その納付の日以後の期間に係る延滞金の額の計算の基礎となる労働保険料の額は、その納付のあつた労働保険料の額を控除した額とする。

3 延滞金の計算において、前二項の労働保険料の額に千円未満の端数があるときは、その端数は、切り捨てる。

4 前三項の規定によつて計算した延滞金の額に百円未満の端数があるときは、その端数は、切り捨てる。

5 延滞金は、次の各号のいずれかに該当する場合には、徴収しない。ただし、第四号の場合には、その執行を停止し、又は猶予した期間に対応する部分の金額に限る。

一 督促状に指定した期限までに労働保険料その他この法律の規定による徴収金を完納したとき。

二 納付義務者の住所又は居所がわからないため、公示送達の方法によつて督促したとき。

三 延滞金の額が百円未満であるとき。

四 労働保険料について滞納処分の執行を停止し、又は猶予したとき。

五 労働保険料を納付しないことについてやむを得ない理由があると認められるとき。

※令和3年は年8.8%(当該納期限の翌日から二月を経過する日までの期間については、年2.5%)となっています。

※「延滞金」は、税務申告上の経費になりません。

 

<滞納処分>

「滞納処分」とは、保険料を期限内に納付した事業主と納付しなかった事業主との負担の公平を図ることを目的に、保険料滞納事業主が自主的に納付しない場合、法的手続きにより滞納事業主の財産から強制的に保険料を徴収する「強制処分」です。

納付についての相談がない、納付の約束が守られないなど、納付の意思が認められない場合には、金融機関、取引先、法務局、市町村等に対して「財産調査」を行います。

この調査によって、金融機関や取引先が経営状態についての不安を感じることがあります。

 

<費用徴収>

事業主が労災保険料を滞納している期間中に業務災害や通勤災害が生じ、被災労働者等に労災保険給付を行った場合、事業主からその保険給付に要した費用の一部(最大40%)を保険料とは別に徴収することになっています。

通勤途上で従業員が事故に遭い、意識不明で病院に運ばれたようなケースで事実が明らかになるようです。

 

<助成金の不支給>

雇用に関する「各種助成金」は、労働保険の「雇用保険料」を財源として支給されます。

労働保険料が納付されていない事業主については、助成金の支給対象になりません。

 

<納入証明書>

「納入証明」は「保険料の未納がないことの証明」です。

労働保険料が完納されていないと、「入札参加資格」や「経営事項審査」等に必要な「労災・雇用保険料納入証明書」が交付されません。

 

<納付できないなら>

納期限までに納付できない事情がある場合は、早めに相談しましょう。

災害等により保険料が一時的に納付できない事業主のために、納付猶予制度があります。

都道府県労働局労働保険徴収室または最寄りの労働基準監督署に相談してください。

2021/11/16|1,146文字

 

<労使協定>

労使協定とは、労働者と使用者との間で締結される書面による協定のことです。

法令に「労使協定」という用語があるわけではなく一種の通称です。

そして、使用者と労使協定を交わす主体は、事業場により2通りに分かれます。

・労働者の過半数で組織する労働組合があるときは、その労働組合

・労働組合が無いとき、あるいは、労働組合があっても労働者の過半数で組織されていないときは、労働者の過半数を代表する者

労働者の過半数を代表する者は、その事業場で民主的に選出されます。

 

<36(サブロク)協定>

その事業場で、時間外労働(法定労働時間を超える早出、残業)や休日出勤(法定休日の出勤)が全くない事業場を除き、これらについての労使協定を所轄の労働基準監督署長に届け出なければなりません。

根拠規定が労働基準法第36条にあるので、36協定と呼ばれます。

労使協定の中には、所轄の労働基準監督署長への届出を義務づけられたものがいくつかありますが、届出をしなくても罰則が適用されるだけで、効力そのものは発生するのが原則です。

しかし、唯一の例外として36協定だけは届出をするまでは無効です。

しかも、届出をした日からの時間外労働などについてのみ有効とされ、日付をさかのぼっての効力は認められません。

さらに、有効期限が最長でも1年間なので、毎年届出が必要なため注意が必要です。

 

<24(ニイヨン)協定>

根拠規定が労働基準法第24条にあるので、24協定と呼ばれます。

労働組合がある会社では、むしろチェックオフ協定と呼ばれることが多いでしょう。

労働者の給与から労働組合費を控除して集め、労働組合に納入する制度をチェックオフといい、多くの労働組合で行われていますが、これはこの労使協定に基づいて行われているわけです。

賃金からは法令に基づき、労働者の同意を得ることなく、所得税、住民税、社会保険料、雇用保険料が控除されています。〔労働基準法第24条第1項但書〕

これは源泉徴収ですが、労働者各個人が納付するより効率的で、確実に徴収できるためです。これに対し、組合費、寮費、昼食費など法定外のものを賃金から控除することは、賃金全額払の原則(労働基準法第24条第1項本文)に反することから、24協定の範囲内で許されます。〔労働基準法第24条第1項但書〕

24協定は、所轄の労働基準監督署長への届出義務がありませんし、有効期限を設ける必要もありません。

それだけに、紛失の危険があります。

万一、労働基準監督署の立入調査(臨検監督)が入ったときのために、保管場所だけはきちんと確認しておきましょう。

また、24協定についても、36協定や就業規則と同様に労働者への周知義務があります。〔労働基準法第106条第1項〕

まとめて周知することをお勧めします。

2021/11/15|976文字

 

 一人で残業https://youtu.be/JlOkgpkLnlo

 

<上司による管理>

上司は部下の仕事ぶりを管理しています。

しかし、部下が全員帰るまで、上司が会社に残っているというのも不合理です。

ある程度育った部下のことは信頼して、ひとりで残業させるというのも許されるでしょう。

しかし、部下だけで残業させておいてノーチェックというのも、上司としての職責を果たしていないことになります。

残業代が欲しくてただ残っているだけの部下に気付かないのではお話になりません。

 

<勝手に残業したのなら>

残業は、会社が社員に命じて行わせるものです。

具体的には、上司が業務上の必要から、部下に命じて行わせることになります。

少なくとも、部下が残業の必要性を上司に打診し、これを受けて上司が部下に命ずるという形でなければ、残業は発生しない性質のものです。

それなのに、部下が自己判断で勝手に会社に残って働いたのなら、上司が指導しなければなりません。

しかし、この場合でも最初の1回は残業代を支払わなければなりません。

なぜなら、会社側である上司の教育指導不足が原因だからです。

 

<残業命令があったとしても>

たしかに「明日の会議の資料を完成させてから上がるように」とは言ったものの、残業時間の長さの割に完成度が低いのであれば、上司から部下に具体的な事情を聴かなければなりません。

解らなかったり迷ったりで時間がかかったのであれば、上司も一緒に残業すべきだったのかもしれません。

能力不足が原因であれば、少なくとも会議資料の作成については、ひとりで残業させないようにする必要があるでしょう。

 

<ひとり残業を発生させない工夫を>

ひとりで残業するというのはモチベーションが下がりますし、たった一人のために光熱費をかけるというのも不合理です。

たとえ部下が残業の必要性を主張したとしても、ひとり残業になるのなら、上司はその部下を帰らせる勇気を持つべきです。

残業の必要性を申し出るタイミングが遅いのなら、仕事の進め方やスケジューリングについての指導が必要です。

仕事の合間に居眠りしたり、軽食をとったり、雑談したり、喫煙したり、仕事に関係ない資料を読んだり、個人的興味でパソコンをいじったり、スマホを操作したりの時間の総合計が長い一方で残業が発生している社員は、人件費の割に仕事が進んでいないことになります。

このような部下に対しては、上司の徹底的な指導が必要でしょう。

2021/11/14|1,066文字

 

会社が健康診断を受けさせないリスクhttps://youtu.be/T3ZIGmMDcCk

 

<採用時の健康診断>

企業は、常時使用する労働者を採用するときには、労働安全衛生法に定める基準により、健康診断を実施しなければなりません。

たとえ就業規則に規定が無くても、あるいは就業規則が無くても、この実施義務は免れることができません。

労働安全衛生法に定める対象者の基準は次の2つです。両方の基準を満たす人については、健康診断の実施義務があります。

・期間を定めないで採用されたか、期間を定めて採用されたときでも1年(深夜業を含む業務、一定の有害業務に従事する人は6か月)以上引き続き使用(または使用を予定)されていること。

・1週間の所定労働時間が、その企業で同種の業務に従事する正社員の4分の3以上であること。

健康診断を行わなかった事業者に対する罰則は、1人1回罰金50万円ですが、健康診断をサボる労働者に対する罰則はありません。

そして、健康診断の実施義務は、事業規模に関係なく定められていますから、小さな会社が免除されることはないのです。

 

<法定されていることの恐ろしさ>

企業が健康診断の実施をサボったとしても、必ずしも罰則が適用されるわけではありません。

しかし、健康配慮義務違反ということになってしまいます。

他人にケガをさせた場合には、傷害罪や過失致死罪など刑法が適用されることがあります。

これとは別に、加害者は被害者から治療費や慰謝料などの損害賠償を請求されてしまいます。

企業が健康診断をせずにいたところ、労働者の一人が勤務中に病死したとします。

この場合に罰金を取られなかったとしても、遺族からは多額の損害賠償を請求されるでしょう。

企業としてやるべきことをやっていなかったのですから、責任は免れません。

しかも、健康診断の実施義務を果たしていなかったことは、簡単に証明されてしまいます。

 

<健康診断は企業にとっても安心材料>

労働者から「仕事が忙しくて血圧が上がった」「仕事のストレスで肝機能がおかしくなった」などの主張があっても、採用時の健康診断を正しく行っておけば、入社の時点から多少の異常は見られたことが容易に判明します

仕事が原因で健康を害したわけではないという証明もしやすくなります。

採用を決めてから、健康診断の結果が悪いことを理由に採用を取り消すのは、安易にできないことです。

むしろ、健康に配慮しながら働かせることになります。

この場合にも、健康診断の結果を踏まえて適正な対応をとったという主張をするには、結果を保管しておくことが役に立ちます。

なお、健康診断の個人別結果は、法定の保管期間が5年間と長いので注意しましょう。

2021/11/13|1,073文字

 

労働基準監督署の立入調査https://youtu.be/lNxUYDb6rFo

 

<労働局の指導>

厚生労働省は、違法な長時間労働を複数の事業場で行っていた社会的に影響力の大きい企業について、都道府県労働局長等から企業の経営幹部に対して、全社的な是正を図るよう指導を行った上で、その旨を公表することにしています。

令和3(2021)年11月1日、これに基づき東京労働局長が指導を実施し、その当日に内容が公表されています。

◯違法な長時間労働の実態

労働基準法第32条に違反し、かつ1か月当たり80時間を超える時間外・休日労働が複数の事業場で認められた

◯是正指導の状況

令和3(2021)年11月1日、東京労働局長から代表取締役社長に対し、違法な長時間労働について、代表取締役社長主導のもと、本社及びすべての傘下事業場における状況を再度点検し、速やかに全社的な改善措置を講ずるよう指導書を交付

◯早期是正に向けた当該企業の取組方針

長時間労働削減並びに法令遵守のため、本社主導で全社的な改善に取り組む

また、採用強化による必要人員の確保、機動的な社員配置を行うとともに、デジタル化の推進及びグループ会社を活用した業務効率化により、労働時間の削減を進める

 

<企業に対する指導・公表制度>

対象はあくまでも複数の事業場を有する大企業ですが、違法な長時間労働等が複数の事業場で認められた企業に対する指導・公表制度についても公表されています。

◯通常の場合

1.違法な長時間労働、2.過労死・過労自殺等で労災支給決定、3.これらと同程度に重大・悪質

1年間で2事業場に上記1.~3.があると、労働基準監督署長による企業幹部の呼出指導、ついで改善状況を確認するための全社的な立入調査が行われます。

ここで再び違反の実態が確認されると、労働局長による指導と企業名の公表が行われます。

◯特に重大・悪質な場合

1.月100時間超の違法な長時間労働、2.過労死・過労自殺で労災支給が決定され労基法32・40,35,36-6,37条違反あり

1年間で2事業場に上記2.が、あるいは上記1.と上記2.が2事業場で発生した場合には、即、労働局長による指導と企業名の公表が行われます。

 

労基法第32・40条違反 :時間外・休日労働協定(36協定)で定める限度時間を超えて時間外労働を行わせている

労基法第35条違反 :36協定に定める休日労働の回数を超えて休日労働を行わせている

労基法第36条6項違反 :時間外・休日労働時間数が月100時間以上又は2~6月平均で80時間を超えている

労基法第37条違反 :時間外・休日労働を行わせているにもかかわらず、法定の割増賃金を支払っていない など

 

2021/11/12|1,361文字

 

<クイズに正解で有給チャンス>

昔、ある支店長が部下に、「クイズに正解しなければ有給休暇を取得させない」というメールを送ったという事件がありました。

この支店長は平成28(2016)年に複数の部下に対して「正解で有給チャンス」など、メールでクイズを出題していたそうです。

不正解の部下には、実際に年次有給休暇の取得を認めなかったとのことです。

  

<しろうと目線では>

なかなか年次有給休暇を取得できない職場で、「少しでも有給休暇を消化させよう」と考え、上司が部下全員にくじ引きやクイズで働きかけて、取得を促進するのは、働き方改革の観点からも良い工夫であるかのようにも見えます。

たとえ経営者や人事部門から「もっと有給休暇を取りなさい」と言われても、全社的にあるいは一部の部門で、なかなか取得できない雰囲気があるかも知れません。

こんなとき「当たりくじを引いたから」「クイズに正解したから」という理由で、堂々と年次有給休暇を取得できたなら、その社員は救われた気持になることでしょう。

 

<法的観点からは>

しかし年次有給休暇は、労働基準法第39条に定められた労働者の権利です。

権利というのは、行使するかしないかが権利者の自由に任されています。

もし「当たりくじを引いたら」「クイズに正解したら」賞品として必ず年次有給休暇を取得するというルールなら、強制的に権利を行使させられることになり、権利者の自由ではなくなってしまいます。

また「外れくじを引いたら」「クイズに不正解なら」年次有給休暇を取得できないというルールなら、会社の許可なく自由に取得できるはずの年次有給休暇が不当に制限されてしまいます。

年次有給休暇の取得促進という目的が正しくても、手段が正しくなければ、法的観点からは違法なこととして否定されることがあるのです。

 

<労働基準法が改正されて>

平成31(2019)41日からは、法改正により、労働者からの申し出が無くても、使用者が積極的に年次有給休暇を取得させる義務を負うことになりました。

権利を行使するかしないかが権利者の自由に任されていることの重大な例外です。

政府は、働き方改革の推進を権利の本来の性質に優先したことになります。

年次有給休暇の付与日数が10日以上の労働者に対し、年次有給休暇のうち5日については、基準日から1年以内の期間に労働者ごとにその取得日を指定しなければなりません。

具体的には、基準日から次の基準日の前日までの1年間で、年次有給休暇の取得について、次の3つの合計が5日以上となる必要があります。

 

・労働者からの取得日の指定があって取得した年次有給休暇の日数

・労使協定により計画的付与が行われた年次有給休暇の日数

・使用者が取得日を指定して取得させた年次有給休暇の日数

 

こうしたことは、多くの企業にとって不慣れですから、ともすると次の基準日の直前にまとめて年次有給休暇を取得させることになりかねません。

これでは業務に支障が出てしまいますので、計画的に対処することが必要になります。

そこで、労働基準法施行規則も改正され、企業は「年次有給休暇管理簿」の作成・運用・保管が義務づけられています。〔労働基準法施行規則第24条の7〕

働き方改革の継続的な推進による法改正に取り残されることがないよう、十分に注意しましょう。

2021/11/11|754文字

 

<出産手当金>

健康保険に入っている人が、出産のために仕事を休み普通に給料がもらえないときに、申請によって支給される給付金です。

まず、被保険者の出産であることが必要です。

被保険者とは保険料を負担している人で、扶養家族は対象外となります。

また、妊娠85日以上での出産であることが必要です。

流産や死産、人工妊娠中絶も含みます。

法律上は、4か月以上となっていますが、妊娠については1か月28日で計算しますし、3か月を1日でも超えれば4か月以上と考えますので、28 × 3 + 1 = 85 という計算により、実際の運用は妊娠85日以上で行われています。

さらに、給料の支払が無いか、出産手当金の金額より少ないことが条件です。

 

<支給金額>

1日あたりの支給額は次の計算式で示されます。

1日あたりの金額 =(支給開始日以前の継続した12か月間の各月の標準報酬月額を平均した額)÷ 30日 × 2/3

数年前に法改正があって、このように「標準報酬月額を平均した額」になりました。

平成28(2016)年3月31日までの支給金額は、もっと簡単で、次の計算式で求められました。

1日あたりの金額 =(休んだ日の標準報酬月額)÷ 30日 × 2/3

前産後休業中に標準報酬月額が変わると、出産手当金の金額も変わってしまったわけです。

 

<解決社労士の視点から>

出産にあたってもらえる給付金には、「出産育児一時金」もあります。

こちらの方は、被保険者だけでなく扶養家族の出産にも支給されます。

扶養している妻だけでなく、扶養に入っている未婚の娘が出産した場合などにも支給されます。

少子化対策で、出産をめぐる健康保険の給付は法改正による充実が進んでいます。

「○○さんのときはこうだった」というのではなく、最新の情報を確認して手続を進めたいものです。

2021/11/10|1,553文字

 

<ある判決>

平成27(2015)年に長時間労働で過労死した服飾雑貨メーカーの男性の遺族が起こした訴訟で、東京地裁が令和3(2021)年10月28日、会社側に約1,100万円の損害賠償を命じる判決を出しました。

退勤後でも、メールの送信やパソコンのファイル更新の時刻が確認できれば、「業務時間」と判断できるという遺族側の主張を認めたものです。

しかし、このことから「退勤後のメールも労働時間に該当する」と短絡的に一般化できるわけではありません。

 

<労働時間の定義>

労働時間とは、「労働者が実際に労働に従事している時間だけでなく、労働者の行為が何らかの形で使用者の指揮命令下に置かれているものと評価される時間」と定義されます。

これは、会社ごとに就業規則で決まったり、個人ごとに労働契約で決まったりするのではなく、客観的に決められている定義です。

もっとも、これは法令に規定されているわけではなく、最高裁判所が判決の中で示したものですし、抽象的な表現に留まっていますので、具体的な事実に当てはめてみた場合には、判断に迷うことが多々あります。

会社の業務との関連性がある程度薄かったり、使用者の指揮命令関係から解放されていると断定できなかったりと、グレーゾーンにある時間帯が問題となります。

使用者側が「指揮命令下に置いていなかった」と主張し、労働者側が「指揮命令下に置かれていた」と主張して、意見が対立することもあるわけです。

 

<労働時間の把握義務>

使用者には労働時間を適正に把握する義務があります。〔労働安全衛生法第66条の8の3、労働安全衛生規則第52条の7の3〕

そして労働時間の適正な把握を行うためには、単に1日何時間働いたかを把握するのではなく、労働日ごとに始業時刻や終業時刻を使用者が確認・記録し、これをもとに何時間働いたかを把握・確定する必要があります。

使用者が始業・終業時刻を確認し記録する方法としては、原則として、次のいずれかの方法によることが求められています。

・使用者が自ら現認し記録すること。

・タイムカード、ICカード、パソコン入力等の客観的な記録を基礎として確認し記録すること。

こうして把握された労働時間は、原則として使用者が労働者を指揮命令下に置いていた時間ということになります。

 

<裁判の証拠>

最初に掲げた判決の事件のように、遺族から「長時間労働で過労死した」という主張があった場合でも、使用者側が労働時間の客観的な記録を保管していれば、この証拠を法廷に提出して主張を退けることも可能になります。

しかし、実際の事件では、使用者側が法令に違反して労働時間の把握を怠っていたのです。

この場合、亡くなった労働者が何らかの記録を残していれば、あるいは遺族の証言があれば、それが法廷に提出され裁判の証拠となります。

タイムカードなどに比べれば、客観的な正確性は劣るかもしれませんが、こうした証拠がある以上、裁判所は判断を拒めません。

こうなると、使用者側はかなり不利な立場に立たされます。

 

<解決社労士の視点から>

もし、この会社がタイムカードで労働時間を適正に把握していたのなら、「退勤後のメールの送受信は、使用者の指揮命令によらず、労働者の個人的な判断で行っていたに過ぎず、会社はプライベートな時間の行動まで管理しきれなかった」という主張が可能だったかもしれません。

このように、会社が法定の義務を怠ったことにより、罰則が適用されることとは別に、民事訴訟で不利な立場に立たされることがあるのは、数多くの裁判例の示すところです。

「労働時間の客観的な把握」が法的な義務となったのは、平成31(2019)年4月からのことです。

働き方改革の一環で急速に進む法改正に取り残されないようにしましょう。

2021/11/09|1,308文字

 

<傷病手当金と労災保険>

傷病手当金は、健康保険に入っている人が、プライベートの生活が原因の病気やケガで仕事ができず給料がもらえないときに、申請によって支給される給付金です。

業務や通勤などが原因の病気やケガであれば、労災保険が適用されますから健康保険の給付は対象外となります。

この場合、健康保険の適用は無いのですが、もっと有利な労災保険の給付があります。

ですから、労災保険が適用されるかどうか微妙なケースであれば、所轄の労働基準監督署に確認するなどしてみて、対象外であれば傷病手当金の手続をするのが良いでしょう。

会社から下手に確認してヤブヘビになることを恐れるのであれば、社会保険労務士などに代わって確認してもらうことも考えましょう。

 

<もらえる条件>

まず、業務外の病気やケガで仕事ができない期間について医師の証明が必要です。

仕事ができないわけではないけれど、大事をとってお休みするというのは対象外となります。

反対に、医師による労務不能の証明があるのに本人が無理して勤務してしまうと、傷病手当金は減額あるいは不支給となるのが一般です。

また、4日以上連続して仕事を休んでいることが必要です。

最初の3日間を「待期期間」といって、ここに公休や有給休暇が含まれていてもかまいません。

さらに、給料の支払が無いか、傷病手当金の金額より少ないことが条件です。

医師が証明した期間と、実際に仕事を休んだ期間とで、重なる日について支給されます。

 

<支給金額>

次の計算式によって算出された金額が支給されます。

1日あたりの金額 =(支給開始日以前の継続した12か月間の各月の標準報酬月額を平均した額)÷ 30日 × 2/3

これは、平成28(2016)年4月1日から法改正によって変更になっています。

それまでは、次の計算式が使われていました。

1日あたりの金額=(休んだ日の標準報酬月額)÷30日×2/3

これだと、健康状態が悪くなって本来の仕事ができなくなり、たとえば正社員から賃金の安いパート社員になって、さらに病状が悪化して休業するようになったようなケースでは、低くなった標準報酬月額を基準とした傷病手当金が支給されることになります。

ケガの場合はともかく、徐々に病状が悪化して入院するような場合には、支払ってきた保険料に対して給付の金額が少なくなってしまいます。

無理をせず早めに入院したほうが、傷病手当金の金額が下がらずに済むというケースも考えられます。

 

<注意したいこと>

たとえば4日間の休業だと、もらえる傷病手当金は1日分です。

「傷病手当金支給申請書」に医師の証明を書いてもらうのに、3千円から1万円の文書料がかかります。

文書料には健康保険が適用されませんし、文書料をいくらにするかは病院の判断に任されています。

交通費などの経費や手間を考えると、申請を見送った方が良い場合もあるでしょう。

労災保険の手続きをしないのは、「労災かくし」となり違法となることもありますが、健康保険の給付を受けるかどうかは本人(被保険者)の自由です。

手続のための書類は、会社と本人と医師の3者が記入しますが、前提として本人の意思を確認して手続を進めたいものです。

2021/11/08|1,172文字

 

<みなし労働時間制が使われるケース>

出張や外回りの営業のように事業場外で行われる業務は、使用者の具体的な指揮監督が及ばず労働時間の算定が困難になる場合が発生します。

こうした場合に労働時間を適正に算定するため、みなし労働時間制が利用されてきました。

 みなし労働時間の算定方法は次の要領です。

労働者が労働時間の全部または一部について、事業場外で業務に従事した場合に、労働時間を算定するのが困難なときには、所定労働時間だけ労働したものとみなされます。〔労働基準法第38条の2第1項〕

ただし、その業務を遂行するため通常の場合、所定労働時間を超えて労働することが必要になる場合には、その業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなされます。〔労働基準法第38条の2第1項但書〕

この場合、業務の遂行に通常必要とされる時間は、会社と労働者代表などとの労使協定により定めることができます。〔労働基準法第38条の2第2項〕

 

<制度利用の注意点>

労働の一部が事業場外で行われ、残りが事業場内で行われる場合は、事業場外での労働についてのみ、みなし労働時間が算定されます。

また、労働時間の算定が困難かどうかは、使用者の具体的な指揮監督や時間管理が及ぶか否かなどにより客観的に判断されます。

現在では、携帯電話などで随時指示が出されるケースが多く、こうした場合には原則として適用対象となりません。

ただし、携帯電話などを所持しているだけで、随時指示が出されているのでなければ、適用対象となることがあります。

 

<ガイドラインの改定>

旧「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」は、平成29(2017)120日に「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」に改められました。

全体としては大きな変更がありません。

ただ、自己申告制で労働時間を把握する場合の取扱が、きわめて具体的になりました。

これは、社外での勤務が多いこと、営業手当や定額残業代を支給していることを理由に、適正な労働時間の把握を放棄している企業が目立ったからだと聞いています。

また、労働時間の適正な把握に関連するサービスの充実も背景にあると思われます。

ほんの一例ですが、SONYが提供しているクラウド型勤怠管理システムのAKASHIは、低コストでパソコン、iPad、スマートフォン、FeliCaカード、ネットワーク対応ICカードリーダーによる打刻ができますし、オフィスでも出先からでも打刻を行えます。

スマートフォンのGPS機能を使うことで、位置情報も記録できます。

こうしたサービスを利用することで、会社は適正な労働時間の把握という法的義務を果たすことができますし、まじめに勤務する外回り担当者と、そうでもない担当者との不公平も解消することができるでしょう。

2021/11/07|1,204文字

 

<リアル雑談>

オンラインではなく、直接顔を合わせて行う雑談を「リアル雑談」と呼ぶことにします。

新型コロナウイルス感染症拡大の影響や、働き方改革の一環で、在宅勤務などのリモートワークが増えてきたため、リアル雑談が減ってしまいました。

オンライン雑談も可能なのですが、相手の様子が判らないので、簡単には声が掛けられません。

それでも、事実の伝達であればメールの方が確実で便利ですし、意思の伝達についても相手が内容を認識できますから、それほどの不自由は感じません。

 

<個別の雑談>

リアル雑談の利点は、何より相手の理解度や本心を探れることにあります。

たとえば「最近、〇〇の件については、××だと思うよ」と言ったのに対して、相手が「なるほど××ですね。気がつきませんでした」と答えたとします。

このときの、相手の顔色というかリアルな反応は、端末の画面では探りにくいものです。

返事があったのだから、おそらく内容を認識したとは思えるものの、どこまで理解したのか、本音で賛成しているのか反対しているのかは、リアル雑談のようには確信が持てません。

この話をさらに続けるべきか、やめるべきか、判断がつかないときには、ここで話を終了してしまいます。

リアル雑談であれば、相手の反応を見ながら説明を追加したり、話をふくらませたりもできます。

こうして理解と共感が深まり、これをベースとして新たな思考や発想も生まれてくるでしょう。

また、孤独感に苛まれて、メンタルヘルス不調に陥る人も出にくくなるわけです。

 

<雑談の集積>

特定の人とリアル雑談を繰り返すうちに、その人の興味の対象、思考の傾向、論理の流れなどを把握できるようになりますし、何をどう説明すれば理解してもらえるか、納得してもらえるかといったコツも分かってきます。

会議のメンバー間で、こうした関係が形成されれば、合意が得られやすくなりますし、結論の出ない会議のための会議は発生しにくくなります。

これはリアル雑談でも、必ずしも容易なことではないのですが、オンライン雑談では困難を極めます。

 

<人間関係の構築>

社内での信頼関係や人間関係は、業務の協力関係の中でも構築されますが、リアル雑談の効用も大きいと考えられます。

雑談をしないで業務だけで信頼関係を築くのは難しいものです。

営業マンは雑談力が重視されますし、会議の中にも雑談が持ち込まれるのは、雑談に大きな効果が認められているからでしょう。

また、信頼関係や人間関係を維持するには、コミュニケーションの継続と直近性が大事です。

「去る者は日々に疎し」という言葉が示すとおり、コミュニケーションを取ってから長い期間が経過してしまうと、人間関係が薄れる傾向にあります。

まれにオンライン雑談をする程度では、不安を感じる人も多いでしょう。

退職者の退職理由は、大半が人間関係であるとも言われます。

リアル雑談は、離職率の改善にも一役買っていることになります。

2021/11/06|1,047文字

 

<ブラックの意味>

ブラックは、自分が身を置く社会関係の中で道義的に求められていることをせず自分(自分たち)のやりたいようにしてしまう人(企業)を指しているようです。

これは、他人から自分(自分たち)への干渉を極端に嫌う、自己中心的で無責任な態度です。

倫理観が欠如していて、正しく行動することについては消極的で無気力です。

 ブラック企業は、企業と労働者が身を置く労使関係の中で、道義的に求められている労働法の順守、誠実な行動、常識的な対応ということに配慮せず、やりたいようにやってしまう企業です。

そもそも労働法の規定はどうなっているか、どうするのが誠実で常識的な行動なのか、これを積極的に知ろうとはしません。

必ずしも悪意をもっているとは限らず、面倒くさいから考えない、コンプライアンスなんて知らないという企業もあります。

 

<勘違いするポイント>

「自分の働いている会社はブラック企業ではないか」と勘違いする人も少なくはありません。

その理由として、次のようなことが挙げられます。

・正社員とその他の従業員とで通勤費の計算方法が異なる

・支給される通勤費に上限額が設けられている

・日曜日や祝日に出勤しても割増賃金が無い

・生理休暇を取った場合に無給となる

・父親の葬式で休んだら弔事休暇ではなく欠勤となった

・8時間勤務で休憩が50分

・退職金や賞与の支給が正社員に限定されている

・2年半勤務しても退職金が出なかった

・試用期間が3か月なのに10日間で解雇となった

どれもこれも就業規則に違反していない限り、必ずしも違法ではありません。

それでも、他の企業と比較して不利であったり、自分の中の常識に反していれば、「ブラック」と判断することもありうるのです。

ましてや、同一労働同一賃金が法定されてからは、正規職員と非正規職員との待遇差があってはならないという誤解も加わり、不満は膨らむばかりです。

 

<疑いを晴らすには>

法律の規定がどうなっていて、会社のルールがどうなっているのか、それはなぜなのか、ということについて社員教育が必要です。

会社が正しいことをしていても、会社を疑う社員がいるようでは、生産性が上がりませんし、社員も会社も成長しません。

そして、この教育は会社を疑っている社員に対しては、効果が期待できません。

少なくとも社外の講師による説明会など、客観性を確保した教育が必要となります。

それでも、社員の納得が得られない社内ルールがあったなら、それはその会社の社員の常識に反しているわけですから、見直しをお勧めします。

2021/11/05|1,040文字

 

<現代版の時差出勤>

東京都では「時差Biz」と称して時差出勤を推奨してきました。

通勤ラッシュ回避のために通勤時間をずらすもので、働き方改革のひとつと考えられます。

たしかに働き方改革の定義は、必ずしも明確ではありません。

しかし、働き方改革実現会議の議事録や、厚生労働省から発表されている数多くの資料をもとに考えると「企業が働き手の必要と欲求に応えつつ生産性を向上させる急速な改善」といえるでしょう。

東京都の特に区部では、満員電車の混雑緩和が社会の生産性向上のための重要な課題のひとつとなっています。

通勤時間をずらすことによって満員電車の混雑緩和を促進する「時差Biz」に、多くの会社で一斉に取り組めば、現在の満員電車での通勤による労働者の肉体的・精神的な負担が軽減され、生産性が向上することは明らかでしょう。

ここに来て、東京オリンピックに向けた準備やコロナ禍によって、期せずして時差出勤の動きも盛んとなりました。

この動きがコロナ終熄後も続くことが、働き方改革の観点からは望ましいわけです。

 

<労働者側のメリット>

生産性の向上というと、企業側のメリットばかりが強調されてしまいますが、空いた電車では満員電車とは違って、働き手にとっても時間の有効活用が可能です。

満員電車では、ただただ耐えるだけの時間となってしまいます。

しかし、空いた電車の中では、スマホで個人の趣味に取り組んだり、ニュースをチェックしたり、資格試験の勉強をしたりと、通勤時間の有効活用が可能となります。

それに、朝早く出勤して夕方は早く帰宅というパターンなら夕方の時間をプライベートに使えますし、遅め出勤なら朝の時間に趣味や家族のコミュニケーションを充実させることも可能です。

 

<会社で必要な手続>

時差出勤は、フレックスタイム制とは違って1日の労働時間(所定労働時間)の長さはそのままです。

早く出勤して早く帰るか、遅く出勤して遅く帰るかということです。

しかし、これを導入するには、会社の就業規則に新たな規定を設ける必要があります。

始業時刻と終業時刻は、就業規則に必ず定める絶対的必要記載事項です。〔労働基準法第89条〕

そのため、時差出勤の対象者や時差出勤での始業時刻と終業時刻のパターンは、就業規則に定めておく必要があります。

また、時差出勤の導入によって休憩時間も変更する必要があったり、一斉休憩の原則が維持できなくなるようであれば、就業規則にその旨を定めたり、一斉休憩の適用除外に関する労使協定の締結も必要となります。

2021/11/04|1,042文字

 

<会社業務に不可欠な報連相>

複数の人が協力して、一人では成し得ないことを達成するためには、意思の疎通が必要です。

これを可能にするのが報告・連絡・相談です。

ですから、会社の中で報連相が適切に行われれば、その会社の中では社員一人ひとりの能力を遥かに超えた成果が得られます。

反対に、報連相が無かったり、いい加減な報連相だったりでは、多くの人が集まり会社として活動することが意味をなさなくなります。

これはすでに世間一般の常識ともいえることです。

それにも関わらず、会社の中には報連相の下手な従業員がいます。

上司は部下の報連相を待っているだけで良いのでしょうか。

 

<上司の指導>

上司は、報連相の下手な部下に対して、次のような指導をします。

・必要な情報の範囲は、情報の送り手が決めるものではなく、受け手が決めるものだから、相手のニーズを考えて報連相を行うこと。

・相手に伝わったことがすべてなのだから、自分が伝えたつもりになってもダメで、相手の都合を考えタイミングを見計らって報連相を行うこと。

・結論を先に言うこと。

・事実と意見を明確に分けること。

こうした指導を受けても、その部下がプライベートで家族や友人から「どうしてもっと早く言ってくれなかったの?」を連発されているような部下であれば、改善は容易ではありません。

社内で要求される報連相は、プライベートでのそれを、質的にも量的にも遥かに上回っているからです。

 

<報連相は双方向のコミュニケーション>

上司が部下に対して、報連相の重要性と適切な方法について精一杯の説明をして、部下が適切な報連相をしてくれるのを待ってみるということも行われます。

しかし、報連相は一人では成り立たないコミュニケーションの一つです。

報告・連絡・相談のすべてに相手がいます。

この相手を想定して積極的に行うというのは、報連相の下手な部下にとって、習慣になるまではむずかしいことなのです。

ですから、上司から部下に対して、次のようなOJTを行うことが不可欠なのです。

・〇〇は終わりましたか?終わっていたら報告してください。

・〇〇の件、先方には連絡してありますか?先方の反応はどうですか?

・まだ〇〇に着手できていないようですが、何か迷っていることがあれば相談してください。

こうした指導を繰り返されることによって、部下は言われる前に自分で考えて報連相を行う習慣が身に着きます。

「あいつは報連相ができないんだよなぁ」とボヤく上司もまた、ある意味コミュニケーションが苦手なのかもしれません。

2021/11/03|939文字

 

<社会保険の資格取得>

社会保険に加入すること、正確には被保険者となることを「資格取得」といいます。

社会保険が適用される会社に入社すると、その日に被保険者となって、当日から健康保険で治療が受けられるのが原則です。

入社日に資格取得するということです。

たとえ試用期間であっても、試用期間の初日から社会保険に加入します。

これを避けるためには、試用期間だけ所定の勤務日数や労働時間を短縮して、社会保険の加入基準以下で勤務してもらうことも可能ではあります。

しかし、試用期間をこうした条件にしてしまったのでは、採用を決定しても入社を辞退される可能性が高いのでお勧めできません。

 

  <社会保険の資格喪失>

社会保険から脱退すること、正確には被保険者ではなくなることを「資格喪失」といいます。

会社を辞めるとき、退職当日まで使っていた保険証が翌日には使えません。

退職日の翌日に資格喪失するということです。

 

  <同日得喪>

社会保険の「資格喪失」の日に、同じ社会保険の「資格取得」が行われることを、「同日得喪」といいます。

定年退職後に同じ会社で再雇用された場合には、賃金が低下することが多いでしょう。

同一労働同一賃金の考え方からすると、これは許されないようにも思われますが、最高裁判所も平成30(2018)年6月1日の長澤運輸事件判決で、ある程度の賃金低下を容認しています。

この場合に、賃金の低下を反映して保険料が安くなるのは、一般の随時改定の仕組みによると4か月も先ということになります。

そこで、60歳から64歳までの老齢厚生年金受給権者が再雇用となった場合などには、退職の翌月分から保険料を安くできるよう、特別に「同月得喪」という手続があります。

このとき、基礎年金番号は変わりませんが、保険証の番号は変わります。

かかりつけの病院には、「保険証の番号が変わりました」と申し出る必要があります。

ここで注意したいのは、保険料が下がるということは、傷病手当金の金額も下がるということです。

定年を機に、持病の入院治療を考えているような場合には、同日得喪を利用しない手もあります。

手続をするのは会社ですが、同日得喪をするかどうかは、このようなデメリットも本人に説明したうえで決めていただく必要があるでしょう。

2021/11/02|1,105文字

 

<法定三帳簿>

労働者名簿、賃金台帳、出勤簿等は、会社に備えておかなければならない重要な書類として「法定三帳簿」と呼ばれます。

会社は、1人でも雇えば、これらの書類を作らなければなりません。

「出勤簿等」と言っているのは、始業時刻・終業時刻を記した出勤簿に代えてタイムカードなど別の記録でもか構わないからです。

これらには、法律に定められた事項を記入し、3年間保管しておくことが義務づけられています。〔労働基準法第107条~第109条〕

これを怠っている会社は、「適法ではない」ということになります。

適法でなければ、従業員や退職者からの損害賠償を請求されやすくなりますし、助成金の受給が不正と認定されやすくなります。

 

<労働者名簿の項目>

労働者氏名、生年月日、履歴、性別、住所、従事する業務の種類、雇い入れ年月日、退職・死亡年月日と理由・原因です。

人事異動があれば、ここに記録されます。

本籍やマイナンバーはこれらの項目に含まれていません。

 

<賃金台帳の項目>

労働者氏名、性別、賃金計算期間、労働日数、労働時間数、時間外労働時間数、基本給、手当の種類と額、控除項目と額です。

ここにもマイナンバーは含まれていません。

 

<出勤簿等の内容>

出勤簿やタイムカード、会社側で記録した始業・終業時刻の書類、残業命令書・報告書、労働者が記録した労働時間報告書などです。

残業は会社の命令によって行うものであり、労働者の勝手な判断で行うものではありません。

労働者が勝手に残業しても、残業手当は発生しないのが正しいのです。

これを明らかにしておくために、残業命令書が運用されている会社があります。

しかし、労働者が会社の指示によらず自主的に残業している場合でも、会社側が黙認していれば残業代の支払義務が生じます。

 

<この他に必要な書類>

法定三帳簿の他に、労働条件通知書、三六協定などの労使協定書、健康診断の結果など、労働法関連の書類だけでも、会社が作成や保管を義務づけられている書類は多数あります。

特に健康診断の結果は、保管期間が5年間です。

労働条件通知書を作成・交付しないのは、明らかに違法なのですが、知らない経営者が多いのも事実です。

どうやって労働条件を決めたら良いのか迷うなら、社会保険労務士に相談してでも決めなければなりません。

 

<マイナンバーは別管理で>

賃金台帳や労働者名簿などにマイナンバー(個人番号)を記載しておけば便利なように思われます。

しかし、マイナンバーは用途を具体的に限定して収集した個人情報ですから、他の目的で使用することがある帳簿に記載しておくことは、適正な管理とはいえません。

別に厳重に管理することが求められています。

2021/11/01|1,765文字

 

<人材育成は投資>

かつては新人教育に熱心だった企業が、即戦力を求めるあまり、人材育成を後回しにする風潮が見られます。

人材を労働力と捉え、教育をコストと考えてしまうと、人材育成は進みません。

しかし、人材育成をコストではなく、投資と捉え積極的に進めなければ、企業の明るい未来は描けません。

 

<事業内職業能力開発計画>

事業内職業能力開発計画は、企業の雇用する労働者の職業能力の開発と向上を、段階的かつ体系的に行うために事業主が作成する計画です。

この計画の作成は、職業能力開発促進法第11条に基づき、事業主の努力義務となっています。

これを受けて、雇用関係助成金の中に人材開発支援助成金が設けられています。

事業内職業能力開発計画の作成は、人材開発支援助成金の一部のコースにおいて支給要件となっています。

そして厚生労働省は、この計画作成の意義について次のように述べています。

 

計画の作成は、従業員の職業能力開発について、仕事の種類やレベル別に、「何を身につけたらよいか」「そのためにはどのような学習・訓練を受ければよいか」を整理することができます。

これらを明らかにして示すことで、企業の経営者や管理者と従業員が能力開発について共通の認識を持ち、目標に向かってこれを進める「道しるべ」となり、効果的な職業能力開発を行うことが可能になります。

さらに、従業員の自発的な学習・訓練の取組意欲が高まることも期待されます。

 

<キャリア形成支援の必要性>

厚生労働省は「事業内職業能力開発計画作成の手引き」を作成し公表しています。

この中の「キャリア形成支援の必要性」の項目では次のように述べています。

 

従来の人材育成は新入社員研修から始まる階層別研修など日本的雇用慣行に基づいて会社が主体となり実施してきました。しかし、経営の核となる人材に対しての選抜研修や従業員一人ひとりが目標を設定し自己啓発に取り組むといった仕組みが広がりつつあります。

特に多様な働き方が一般化したことにより、個人の自律的な能力開発も広がっています。

キャリア形成とは、「自らの職業生活設計に即して必要な職業訓練・教育訓練を受ける機会が確保され、必要な実務経験を積み重ね、実践的な職業能力を形成すること」と定義しています。

短くまとめると「長い職業生活を充実させるため、よく学び、仕事の経験を重ね広く通用する職業能力を身につけること」としています。

また、このような状況の下で会社は従業員のキャリア形成をどのように支援していけばよいのでしょうか。

従来のような従業員全員に対して一律的な能力開発を行おうとしても限界があります。

このため個人が主体的に行おうとするキャリア形成を側面から支援することが求められています。

実際にキャリア形成といわれてもとまどう人が多いのではないでしょうか。

個人主導となっても、何をすればいいのかわからないという人もいます。また、情報が無いため何があるのかわからない、あるいは業務の多忙さから取り組めないということもあります。

このため、キャリア形成を実施するための情報提供や休暇取得、勤務時間の配慮が求められます。このようなことを実施することで求める人材の確保にもつながります。

厳しい経営環境を乗り切れる人は、創造的で高度な専門能力を発揮できる能力を身につけている人といえます。このような人は主体的に自身の能力開発に取り組めますが、その能力を発揮する場面は主に職場です。

よりよい人材を確保するためにも、キャリア形成を支援する必要性があります。

 

会社主導の能力開発は、終身雇用・年功序列を前提とした他律的・一律的なものでした。

しかし、この前提が崩れ、職業能力開発の主導が会社から個人へと移りました。

個人主導の能力開発は、IT人材のような新しいタイプの人材の確保・育成に対応した自律的・多面的なものです。

とはいえ、キャリア形成を自己責任としていたのでは、人材育成の目的が果たせませんから、会社が積極的にキャリア形成を支援する必要があるということです。

 

<解決社労士の視点から>

社会の激しい変化に対応すべく、改めて人材育成の強化に乗り出す企業が増えると思います。

過去の研修の復活を検討するのではなく、従業員のキャリア形成の支援の観点から計画を進めていただけたらと思います。

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